ちょっと固いお話ですが、アニメーションにもアカデミックな学会があります。国内では日本アニメーション学会、海外にはSociety for Animation Studiesがあります。
そして、学会ではないのであまり知られていないのですが、ジブリ美術館を運営している公益財団法人徳間記念アニメーション文化財団では、毎年アニメーションに関する学術研究を発表しています。
ジブリ美術館というと、わくわくする展示物や期間限定のショートフィルムが有名ですが、1999年から現在までほぼ毎年、アニメーション研究の助成をしています。いままでに12の研究論文が完成しているそうです。
言語学、歴史学、心理学など幅広い視点からアニメをみる
ひとことでアニメ研究といっても、論文のタイトルをいくつか並べてみるとさまざまな研究をサポートしてきたことが分かります。
「アニメーションのリアリティに関する調査研究」(2005)
「ドイツにおける日本アニメーションの映像翻訳に関する調査研究」(2007)
「アニメーターを主としたアニメ制作者の労働実態に関する現場調査」(2007)
「アニメーション作画における習得プロセス―認知過程に注目して」(2008)
「漫画のアニメーション化における一考察」(2008) 「戦後日本における自主制作アニメ黎明期の歴史的掌握」(2012)
採択された研究分野は、言語学、美学、美術史、歴史学、社会科学、心理学から映像学まで、バラエティに富んでいます。残念ながら誰でも論文が読めるわけではないようですが、大きな図書館やアニメ研究者には毎年、財団年報の別冊として送られているので意外と近くの図書館においてあるかもしれませんね。
実は、ジブリ論文のひとつである「アニメーション作画の習得プロセス」は、私が社会人大学生だったときに助成していただいた研究です。当時、35歳までという応募要件は満たしていませんでしたが、ダメモトで研究計画書を送ったところ、ありがたいことにジブリ美術館のご厚意で研究が採択されました。
時期的に、ちょうど大学院入試と卒論が重なっていたため、かなりハードなスケジュールでした。とはいえ、アニメ制作の修羅場に比べればずっと軽いものでした。
「崖の上の師匠」アニメの制作には「仲間」と「師匠」が大事
私の研究は、「先天的な才能が大きく変わることはなくても、環境は変えられる。それならば、アニメの仕事はどういう環境なら上達するのか」と思ったことがきっかけです。どんな仕事もそうだと思いますが、プロジェクトを通して大きく化ける人はいるものです。
論文では、アニメ制作現場ではそのときどきの「仲間」とのつながりが大事であると結論しました。伝統芸能の熟達化研究でも「世界への潜入」「模倣」「型」「間」が大事だと言われてきましたが、それに加えて流動的な「仲間」がアニメ制作には重要なのです。
ジブリ研究の後に進学した大学院のゼミで、教授から「師匠の影響も結構大きいよね」という指摘もいただき、そのゼミの最期に「崖の上の師匠」というプレゼンをしたことがあります。師匠がウルサイほど弟子が育つ、という仮説です。
バカらしい!と思うかもしれませんが、学説も99%が仮説なので、目くじらを立てずにそれぞれの立場からいろいろな議論が出ることが新しい知見を得るために重要なのです。
ジブリ美術館のアニメ研究助成はあまり知られていない事業ですが、アニメ作品と同様にこの「種」も育ててみると意外と面白いのではないかと思っています。(数井浩子)