がん治療が終わったからといって、身体はすぐに元の状態に戻るわけではない。最近は内視鏡手術など身体への負担を抑えられる治療も増えている が、手術や抗がん剤治療、放射線治療などを受けたときには、正常な細胞にも少なからずダメージが生じてしまう。
体力が回復し社会復帰するまで時間がかかることが予想されるが、治療後の社会復帰の際には、どのようなことを想定し気をつける必要があるのだろうか。
短時間勤務から始め、負担の少ない部署への異動も
30代男性のAさんは、手術でがんを切除し、目に見えるがんを取り除くことに成功。仕事は治療後1か月から数時間勤務を始め、半日勤務や残業なしなど無理のないよう職場に配慮してもらっていた。
しかし、しばらく経つと治療前と同じように残業の多い状況になってしまった。忙しさもあって職場の人間関係もギスギスしてきてストレスがたまり、心身ともにヘトヘトになってしまったそうだ。
患者会などで相談すると「忙しくない仕事に転職したらどうか」と勧められたが、子どもを抱えているのでふんぎりがつかず、現在は異動願いを出しているという。希望が通るまではいまの環境で続けてみるつもりだが、体調が崩れた場合には自身の健康を第一に考えたいと話している。
がんはもちろん、脳卒中、心筋梗塞など心身にダメージを与える大病は、治療したからといっていきなり元気になるわけではない。心身への過度なストレスは病気の悪化を招く。
せっかく治療して職場復帰しても、以前と変わらずハードな仕事を続けていては、心身に負担がかかる。無理は再発のリスクを高めることにもつながる。
できれば職場復帰後すぐは、短めの勤務時間から始めて徐々に体を慣らし、あまりにも忙しい場合は負担のない部署に異動させてもらいたいところだ。金銭的に余裕があれば退院後も休暇をとるなど、心身に負担がかからない生活が送れるよう調整をしたい。
無理がたたって体調を崩し、復帰が遅れることも
40代女性のBさんも手術は成功したが、再発する確率が高いがんなので、野菜ジュースを飲んだり動物性食品を制限したりして、食生活の見直しにつとめている。
もともと専業主婦だったので家事は疲れない範囲にとどめ、重いものは休日に家族と一緒のときに購入するなど、家族にもできるだけ協力してもらっている。
自分の希望通りにならないこともあるが、まずは「自分が病み上がりで無理のきかない体であること」を周囲に説明して「できる範囲で手伝ってもらう」ことが大切だ。病を患って心身ともにしんどいときには、周囲に甘えることも選択肢のひとつになる。
治療によって、数週間以上寝たきりの入院生活を過ごすと、筋力が落ちて体力が低下し、退院直後は、家の中を歩くだけで息があがってしまったという経験談をよく耳にする。
治療が長くかかった人ほど、できるだけ早く社会復帰しようと無理をしがちだが、無理が負担となって体調を崩し、社会復帰が遅れてしまうこともある。焦る気持ちを抑えて、体力と気力が回復するまでは無理をしないで過ごすことが大切だ。
主治医と治療後の復帰スケジュールを相談しながら、無理のないペースでの社会復帰を心がけることが大切だ。