先日、企業の平均勤続年数についてJ-CASTニュースの取材を受けてコメントする機会があった。なんでも一部の新興企業のそれがやたらと短い点がネットで話題となっているそうだ。
当たり前の話だが、急成長中の企業には1年選手や2年選手が過半を占める企業も珍しくはないので、勤続年数はびっくりするくらい短いものとなる。だから、そういった企業を勤続年数で測るのはナンセンスだ。
そもそも、筆者はいまだに“勤続年数”を気にかける人がそんなにたくさんいることに驚いてしまった。というのも、筆者の感覚で言うと、勤続年数は長くても全然意味がないか、むしろマイナスな数字であるためだ。いい機会なので簡単にまとめておこう。
東大OBでも転職経験のない30代後半は少数派
連休中、筆者は大学時代の友人知人たちと会食する機会があったが、そこで(不参加者も含めた)近況確認をして気付いたことがある。30代後半ともなると、一度も転職していない東大OBの方が少数派だという現実だ。
一応言っておくと、新卒でいきなりDeNAやGREEのような新興企業に行く最近の東大生なんかと違って、90年代の古き良き東大生は「できるだけ大きく歴史ある大企業」にいかに潜りこむかに血道をあげていた。要は平均勤続年数の長い企業だ。
でも、結局はその多くが、自分から乗車券を破り捨て途中下車していることになる。理由は簡単で、終身雇用制度という仕組みが、少なくともこれから自分の人生を投資する商品としてはきわめて割に合わないモノだと気付いたからだ。
この点については、3年前にようやく内閣府もお墨付きを出してくれたので、一部引用しておこう。
「(2、30代正社員の流動化について)これらの結果は、近年の高齢化による労働者の年齢構成の変化や成長率の鈍化により、年功賃金制と終身雇用制がともに維持困難になっていると考えると理解し易い。同じ企業で働き続けても賃金の上昇が期待できないと感じた若年労働者は、より良い条件の職に就くべく、現職を離れる選択をするだろう」(内閣府経済社会総合研究所「経済環境の変化と日本的雇用慣行」より)
だから、今の筆者が「平均勤続年数の長い会社」と聞いて頭に浮かぶのは、だいたいこんな関係者のいる職場である。
・辛うじて逃げ切ったと喜んでいる団塊OB
・解雇規制緩和の議論にビクビクしながらも、それなりの地位についてふんぞり返る50代
・もはや諦観したバブル世代
・仕事に対して冷めてる20~30代
「ヒラでもいいから定年」は大企業では叶えられない
少なくとも、自分がある程度のスキルや報酬を手にしたいと考える人材にとって、こういう職場に定年まで在籍するメリットはないはず。これが「筆者が平均勤続年数なんて意味がない」と考える理由である。
では何で会社を選ぶべきかと言えば、ずばり「そこでどういったキャリアが身につけられるか」という点だ(30代なら単年度あたりの年収でもいいだろう)。ただ、恐らくこういう疑問を抱く人もいるはずだ。
「ヒラでも何でも、定年まで雇ってくれればそれでいい。そういう人にとって平均勤続年数は今でも重要な指標では?」
残念ながらそういう低モチベーションな人は、平均勤続年数を公開しているような大企業にはまず相手にされないので、やっぱりこの指標は使いものにはならないだろう。(城繁幸)