「声」「音楽」「効果音」――アニメの「音」をあやつる音響監督

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   アニメのなかで、音の存在は意外と大きいものです。アニメの音は大きく分けると3つあります。声優さんによる「声」、テーマソングやBGMなどの「音楽」、そして雷や雨音などの「効果音」です。

   これらの音をつくりあげるのが、音響スタッフです。アニメの音を自在にあやつるチームのリーダーを音響監督といい、監督の求める作品の世界観に合わせて的確に音を選択・構成して、映像と合わせます。

音次第でシーンがしんみりしたり明るくなったり

別れのシーンにアップテンポのラテン音楽をつけると新しい出会いの予感が…
別れのシーンにアップテンポのラテン音楽をつけると新しい出会いの予感が…

   以前、あるアニメシリーズで音楽を担当した作曲家から聞いた話です。彼の通っていたバークレーの音楽学校では、映像に音楽をつける課題があったのですが、面白いことにクラスメイトのつけた音楽は、みごとにバラバラだったそうです。

   芸術には「これが正解!」という答えがあるわけではないので、映像の解釈や音楽の選択にその人なりの個性が出るというのはわかるような気がします。

   しかし、「もっと興味深かったのは」と彼が言うには、同じ映像を使っているはずなのに音楽によって画面がまったく異なったテイストになっていたこと。

   たとえば、別れのシーンに悲しい音楽をつけるとしんみりとした情緒のあるシーンになりますが、その逆に、アップテンポのラテン音楽をつけると、哀しみと同時に新しい出会いを予感させるシーンになることがあります。

   いつも音響スタジオにいくたびに感動するのですが、映像に「音」がつくと、それまで編集室で見ていた音のない映像とはまったく別物にみえます。始めて聴く「音」は、想像どおりの音もありますが、「あれ?」と思うような音がついていることもあります。

   もちろん、「期待どおりの音」にせよ「意外な音」にせよ、音響スタジオでは最終的には作品の方向性や世界観に合わせて監督と音響監督がバランス調整するのですが、映像と音が結びつくダビングは、まさにアニメが作品として「おぎゃー」と生まれる瞬間です。「アニメつくりで音響が重要」というアニメ監督が多いのはわかるような気がします。

静かさや岩にしみいるアニメの音

   監督や演出が音響効果を大事にするのは、音楽で映像表現がより豊かに効果的になるからですが、音に関して実は、映像のメッセージを伝える別の方法もあるのです。それは、

「ここは自然音だけでお願いできますか?」
「このシーンの音楽を外してください」

と、あえて音楽を入れない方法がそれです。せっかく音響監督が用意してくれた音楽や効果音を「落としてください」とは言いづらいものですが、音楽で盛り上げることの多いクライマックス・シーンであえて音楽を抜くことがあります。

   BGMを風の音や鳥の声、衣ずれのかすかな摩擦音などの「効果音」だけにすると、セリフがなくてもキャラクターの心情が何倍にもなって観ている人に伝わるのです。観ている人が自由に想像することで、より印象的なシーンにさえなります。

   断捨離ではありませんが、捨てることで豊かなものが入ってくるということは「音」にもいえるのでしょう。情報面を削ぎ落とせば落とすほど情緒面が強まるということが起きるのです。「引き算の美学」という人もいます。

   このように、アニメの「音」には、掛け算と引き算の二つがあるのですが、どの作品も毎回、音響監督と監督、演出が悩みながら「動画」と「音」の連立方程式を組み立てています。今度アニメをみるときに、ちょっとだけ「音」に注目して観てみてくださいね。面白い発見があるかも知れません。(数井浩子)

数井浩子(かずい・ひろこ)
アニメーター、演出家。『忍たま乱太郎』『ポケットモンスター』『らんま1/2』『ケロロ軍曹』をはじめ200作品以上のアニメの作画・演出・脚本などに携わる。『ふしぎ星の☆ふたご姫』ではキャラクターデザインを担当した。仕事のかたわら、東京大学大学院教育学研究科博士後期課程に在籍。専門は認知心理学
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