「声」「音楽」「効果音」――アニメの「音」をあやつる音響監督

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静かさや岩にしみいるアニメの音

   監督や演出が音響効果を大事にするのは、音楽で映像表現がより豊かに効果的になるからですが、音に関して実は、映像のメッセージを伝える別の方法もあるのです。それは、

「ここは自然音だけでお願いできますか?」
「このシーンの音楽を外してください」

と、あえて音楽を入れない方法がそれです。せっかく音響監督が用意してくれた音楽や効果音を「落としてください」とは言いづらいものですが、音楽で盛り上げることの多いクライマックス・シーンであえて音楽を抜くことがあります。

   BGMを風の音や鳥の声、衣ずれのかすかな摩擦音などの「効果音」だけにすると、セリフがなくてもキャラクターの心情が何倍にもなって観ている人に伝わるのです。観ている人が自由に想像することで、より印象的なシーンにさえなります。

   断捨離ではありませんが、捨てることで豊かなものが入ってくるということは「音」にもいえるのでしょう。情報面を削ぎ落とせば落とすほど情緒面が強まるということが起きるのです。「引き算の美学」という人もいます。

   このように、アニメの「音」には、掛け算と引き算の二つがあるのですが、どの作品も毎回、音響監督と監督、演出が悩みながら「動画」と「音」の連立方程式を組み立てています。今度アニメをみるときに、ちょっとだけ「音」に注目して観てみてくださいね。面白い発見があるかも知れません。(数井浩子)

数井浩子(かずい・ひろこ)
アニメーター、演出家。『忍たま乱太郎』『ポケットモンスター』『らんま1/2』『ケロロ軍曹』をはじめ200作品以上のアニメの作画・演出・脚本などに携わる。『ふしぎ星の☆ふたご姫』ではキャラクターデザインを担当した。仕事のかたわら、東京大学大学院教育学研究科博士後期課程に在籍。専門は認知心理学
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