人間というのは、そう簡単には変われないものだ――。これは、私が自分の会社でやっている人材採用のビジネスで、多くの採用を見てきた経験から得た確信です。
たとえば日本のメーカー、パナソニックしかりシャープしかり、ソニーしかり。発想が旧態依然としていて、どうも周回遅れになっています。この時、多くの日本人は「社員は意識を変えるべきだ」「人が変わることによって、企業が変わる」と考えます。
しかし、人は本当に変われるものなのでしょうか。それによって企業は変わるのでしょうか? 私は、ノーだと思っています。
不要な人材を解雇し新たな人材を雇い入れたIBM
今でこそ好調のIBMですが、かつてはホストコンピューターというハードウェア売りの商売が行き詰まり、現在のシャープのような瀕死の状態にありました。
その時、社外から招聘されて再生に成功したのが、有名なルイス・ガースナー会長です。彼の手腕でIBMは、ホストコンピューター販売からソフトウェアやサービスに軸足を移し、いまでは世界最大規模のコンサルティング・アウトソーシングの会社になっています。
その時の経緯は、「巨象も踊る」(日本経済新聞出版社)という手記に記されています。私はこれを読んで、「企業が変わる」ということの認識が日本企業とまるで違うことに愕然としました。
IBMの改革は「人の意識が変わった」からできたのでしょうか。否です。ガースナー会長は、いままでホストコンピューターを売っていた人々に対して、コンサルティングができるように教えたわけではありませんでした。
彼が行ったことは、ホストコンピューター部門の不要な人材を解雇して、新しくコンサルティングが行える人材を雇い入れたのです。つまり、人を入れ替えた。昔の従業員を新しい産業のために教育したのではなく、人をまるごと入れ替えたのです。CEOを入れ替えるということ自体、まさに「人を入れ替える」の象徴です。
ある技術を持った人が、場所を移ることで花開く
日本ではどうしても、いままで別のことをやっていた人材に新しいことをやってもらおうとします。人の行動を変えることによって、企業を変えようとします。
解雇できなければ、社内の配置転換で対応するしかありません。すると家電しかやったことがない人が、時代の流れでしかたなくネットに取り組まざる得なくなり、「クラウドサーバー経由で洗剤や柔軟剤の量や衣類や汚れに合った洗濯コースを選んでくれる洗濯機」を35万円で発売してしまったのかもしれません。
シャープやソニー、パナソニックなどの会社は、古くなった人材を解雇し(もしくはM&Aで切り離し)、コアの事業に集中しつつ、新しい人材を雇い入れることでしか劇的な復活は見こめそうにないと思います。そしてそれが、企業再生の王道です。
解雇規制の緩和がようやく成長戦略のひとつとして討論されるようになってきましたが、このような人の入れ替えができることが、企業が変わるための条件なのだと思います。
例えば、ソニーで電池をやっていた人は、ソニーではもう用がないかもしれない。ただ、彼の電池の技術を欲しているところは他にあるかもしれない。自動車会社にいけば、電池の技術が電気自動車に生かせるかもしれません。
自動車メーカーでは、ガソリンエンジンを作っている人は先がないかもしれない。しかし、産業用や特殊な機械の分野では、まだまだエンジンのニーズがあるかもしれないし、それを掘り起こすベンチャー企業もあるかもしれません。
その人の才能がより発揮できる舞台を求めて
会社を変わることで、その人の才能がより発揮できる舞台に出会うマッチングが行われるのが、新陳代謝や流動性の本質です。これが絶えず行われることで、企業も変わることができ、個人も自分の特質を生かし続けることができるのです。
転職というのは本質的に、自分の能力をあげるキャリアアップというより、機会やチャンスのマッチングです。自分のできることがより生かせるところに移れば、チャンスも増え、結果として大きな仕事ができてキャリアアップになります。
日本の場合、多くの才能が大企業にロックインされていて出てきません。本人にとっても辛いだろうし、企業にとっても不幸です。雇用の流動化は今までタブー視されてきましたが、これがなければ日本企業は不幸な人材をたくさん抱え、タイタニックのように沈んでしまうでしょう。(大石哲之)