「ライバルの女の子を、オリジナルキャラで描いてください」
「主人公の友だちを3人、描き起こしてください」
原作のあるアニメでも、原作に出てこないゲストキャラが必要になることがあります。キャラクターデザイナーとしては、オリジナルキャラが描ける格好のチャンス。ワクワクしてしまいます。
滅多にないのですが、「声優さんに合わせてキャラをつくって」といわれるケースもあります。先に声優さんが決まっている場合です。今回はそういうケースのひとつ、栗山千明さんをアニメキャラにしたときのお話です。
「クールビューティで猫耳で女子高生」
栗山千明さんは『バトルロワイヤル』『キル・ビル』でブレイク、長い黒髪と強い眼差しが特徴のクールビューティな女優さんです。アニメ好きなことでも知られていて、『機動戦士ガンダムUC』ではテーマソングも歌いました。
栗山キャラを描くことになったのは偶然なのですが、栗山千明さんが第1回ミス東京ウォーカーグランプリを受賞した直後、角川映画『死国』(1999年)で女優デビューが決まっていた時期と、たまたま私が角川アニメでキャラクターデザインを担当していた時期が重なっていたからです。
依頼されたキャラは、その作品の原作には当然出てこないキャラクターだったので、まったくのオリジナル。役どころは敵ボスの姪という設定。なぜか、敵側のキャラは猫属性キャラだったので、最初から猫耳ということだけは決まっていました。なので、
「栗山千明で女子高生で猫耳のキャラ、つくってください」
というオーダーになったわけですが、今あらためて考えると、クールビューティで猫耳で女子高生……。別のニーズがありそうです。
この栗山キャラは作品後半のエピソードで少しだけ登場するゲストキャラだったので、収録も2回ほどで終わりましたが、スタッフと「『うる星やつら』が好きなんです!」というアニメ話で盛り上がったりしたそうです。緊張しながらも楽しんでアフレコをしたようでした。
アニメもキャラも「一期一会」だからこそ
俳優にあわせてキャラをつくったとしても、アフレコが終わって、全員の声が入るまでキャラクターデザイナーとしてはモヤモヤしています。しかし、声の演技が加わると、アニメキャラが一気に生き生きしてくることがあります。
想像した以上に濃いキャラになっていたり、想定していた声とは正反対のトーンだったり、アニメは「絵」と「音」の両方の相乗効果なのだとあらためて実感します。
栗山キャラも「猫耳女子高生キャラ」だったのですが、声が落ち着いていたので、キャラの動きを少し変えて、大人と対等に戦う芯の強さが出るように作画しました。『キル・ビル』のゴーゴー夕張をみたときに、栗山キャラはやっぱり「闘う女子高生」だと、ひとりで納得してしまいました。
アニメの「絵」と「音」は別々の現場でつくられているので、毎回、最後までドキドキしてしまいます。アニメキャラと声が合っているとホッとします。しかし、どのキャラもその番組が終わるとお別れです。
アニメキャラと声優の出会いは一期一会だと思いますが、私たちスタッフにとっても「その声」とは一度きりの出会いなのです。声優さんがときどきは、今まで出会ったアニメキャラを思いだしてくれるとうれしいなあと、デザイナーとしては思っていたりしています。(数井浩子)