「お前ら会社をつぶす気かって!」 社長の怒りは社員に届くのか

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   前回に引き続き、精密機械メーカー顧問Kさんのお話です。現在勤めるS社には社長室はなく、社長席は社内を見渡せる広いフロアのど真ん中に位置しています。

   社内コミュニケーション重視というM社長の意向はいいのですが、この人はワンマンで超短気。Kさんが出社し始めた頃は、頭に血が上ると一担当者まで自分の席に大声で呼びつけては、いきなり怒鳴り散らすという光景が頻繁に見られました。

「親の心、子知らず」なのか、それとも逆なのか

部下の気持ちを分かろうとしない社長の言うことなど聞きたくない
部下の気持ちを分かろうとしない社長の言うことなど聞きたくない

   言われた社員は皆シュンとしている。Kさんは社長に、なぜそんなに頭ごなしに怒鳴りつけるのか尋ねました。すると社長はこう言い訳したそうです。

「お前ら会社をつぶす気かって、本気で思うんだよ。僕が立ち上げて大事に育てて上場まで果たした会社だよ。社員はそんな社長の思いや社長の立場を、全く分かっていない。親の心、子知らずとはよく言ったもんさ」

   Kさんは、これを聞いて心底困ったものだなと思いました。社長は自分の気持ちを理解してもらえないように映るのかもしれませんが、一介の社員が常に社長の立場でモノを考えて動けという方が無理な話です。

   それに、雇われの身の社員たちが社長に頭ごなしに叱られれば、「オレはもうダメだ。この会社では浮かばれない」と思うのが普通。実際、社長が気がついていないかもしれないが、雷を落とされた社員たちは、みな萎縮して元気を失っています。

   前の会社でサラリーマン社長に上り詰めたKさんには、このままでは有望な若い社員たちをつぶしてしまい、会社をダメにしかねないと強く感じられたのです。そこで思い切って、社長にこう直言しました。

「あなたは社長なんだから、自分から社員の気持ちを分かってあげられなかったら、社員があなたの気持ちなんて分かるはずがない。子育てだって同じでしょ、大人である親の方がまず子供の目線で接していかなかったら、子どもはちゃんとした子に育たないですよ。社長は子の心、親知らずです!」

どうしても頭に来たら「机に人形を置く」

   Kさんのこの叱咤は社長の心にかなり響いたようで、しばらく考えた後に神妙な面持ちでこう絞り出したそうです。

「僕は学生時代に大手メーカーでアルバイトしたことがあるんだけど、その時に見たサラリーマン社会が本当に嫌でね。自分を殺して上の言うことに従うような生活はしたくないと思って、自分で会社を立ち上げたんだけど、いつの間にか僕は彼らにそんなサラリーマン生活を強いていたってことなのかね」

   それでも、社員とのコミュニケーションも減らしたくない。どうしたらいいかと言う社長に、Kさんは3つの条件を出したそうです。

・社長が直接叱っていいのは部長クラスまで(ただし怒鳴らない)
・課長以下とのコミュニケーションは本人をほめる話を探し、今まで以上に自席に呼んで話す機会を多く作る
・どうしても頭に来た時には、怒る前にKさんに相談する

   3番目については、以前社員が作ってくれた「社長人形」を机の上に置くのが、2人の間での合図になりました。

   「社内コミュニケーションが子育てと一緒とは、うまいことを言われたもんだ」と振り返るM社長。始めた当初は社長人形が机の上に毎日置かれていたそうですが、今ではほとんど姿を見せなくなったそうです。(大関暁夫)

大関暁夫(おおぜき・あけお)
スタジオ02代表。銀行支店長、上場ベンチャー企業役員などを歴任。企業コンサルティングと事業オーナー(複合ランドリービジネス、外食産業“青山カレー工房”“熊谷かれーぱん”)の二足の草鞋で多忙な日々を過ごす。近著に「できる人だけが知っている仕事のコツと法則51」(エレファントブックス)。連載執筆にあたり経営者から若手に至るまで、仕事の悩みを募集中。趣味は70年代洋楽と中央競馬。ブログ「熊谷の社長日記」はBLOGOSにも掲載中。
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