「楽しみが一つでき、とても嬉しいです。ありがとう」
「小さい時もみていましたが、今見た方が意味がわかりとてもおもしろいです!」
「ワロタwww 今の時代でも通用する」
サトウサンペイさんの4コマ漫画「フジ三太郎」が電子書籍になり、J-CASTニュースは2013年4月16日から毎日1作品、ネットでの公開を始めました。読者からは早くも上記のような反応が届いています。
時代は高度成長から安定成長へ
朝日新聞で昭和40(1965)年から平成3(1992)年まで連載され、大人気だった「フジ三太郎」。その作品は今から20年から50年近く前に描かれたものです。なぜ今も共感を呼ぶのでしょうか。あるいは郷愁を誘うのでしょうか。
主人公は平凡な安サラリーマン。上司をからかっても憎まれず、ちょっとエッチなダメ男です。でも、いつも庶民の気持ちを代弁する小さな正義漢でもあります。
その三太郎が職場や通勤途中、あるいは家庭などで体験する様々な出来事、さらには社会問題への思いなどを、ユーモアや皮肉、ときには怒りもまじえながら4コマ漫画でつづったというのが「フジ三太郎」です。
時代は高度成長から安定成長に移行した昭和黄金期でした。人口が1億人を突破し、3億円事件や大阪万博、あさま山荘事件などがあり、相撲は大鵬や千代の富士、野球は巨人阪神戦に日本中が沸きました。
東京ディズニーランドも開園します。沖縄返還、中国との国交回復などを経て、日本は米国に次ぐ経済大国へとのし上がりました。
この時代を象徴するCMに「オー・モーレツ!」があります。「モーレツ社員」という言葉も生まれました。三太郎は「モーレツ」から脱落した「落ちこぼれ」サラリーマンでした。とはいえ、満員電車に揺られながら職場に通う、当時の日本を支えた一人でした。
今と地続きの時代を生きていた
「フジ三太郎」に登場する人物の顔ぶれはバラエティに富んでいます。三太郎の家族はおばあちゃんがいる三世代同居、家は一戸建てですが借家です。会社の上司には女性管理職がいて彼女は英語が達者です。
通勤途上のミニスカのOLに胸を躍らせますが、男女雇用機会均等法が施行され、職場ではもはやお茶くみが必ずしも女性の仕事ではありません。GWともなると、若手社員はこぞって長期の休みを取って海外旅行に出かけてしまい、職場に残るのは中高年オヤジだけです。
そう、「フジ三太郎」は、登場人物だけ見ても、戦後、日本の庶民像がモーレツに様変わりしていった時代の物語ということがわかります。古い慣習を引きずる老人もいれば、新しい考え方をする新入類に近い若手社員も登場します。
男尊女卑は否定され、職場での女性進出は止まらない。クルマ社会になり、マンションに住む人も増えて、生活の隅々まで利便性が高まる一方で、格差も微妙に広がり、公害などのマイナス面も指摘されるようになります。
社会の構造が変わり、階層分化が進む中で、人々の意識や生活様式、価値基準や規範も揺らぎ始める。そうした表面的には繁栄しているが、内部に不安定さを抱えた昭和後期の社会と人々の様子を、「フジ三太郎」は同時代記としてつづっています。それはまさに今の日本と地続きの、あるいは今を予見した姿です。
そのころ普通の日本人は何を思い、どんな行動をしていたのか。それは少し前の時代の日本人の姿と、どう異なり、あるいは変わらなかったのか。さらには今の私たちと…。「フジ三太郎」にはそんな高尚なことを考えるヒントもあちこちに隠されています。
一読して「くすっ」と笑った後に、じわーっと不思議な感情が湧いてくる――。そこにこそ「フジ三太郎」の比類なき面白さ、真骨頂があるといえるでしょう。