「子どもに愛されるアニメキャラって、どこが違うと思う?」
色見本をチェックしていると、急に監督がスタッフに質問しました。白黒アニメの時代から仕事をしている監督は、にやっと笑って一言いいました。
「アトムを考えてみなよ」。その監督は、『タッチ』『グスコーブドリの伝記』などをつくった杉井ギサブローさんです。その当時、4月からはじまるNHKのオリジナルアニメの総監督をしていました。
アニメキャラはアトムもルフィもシルエットが命
オリジナルアニメは原作のあるアニメと違って、イチからキャラクターをデザインし、キャラに合わせた色を決め、美術設定も最初から作っていかないといけないので、毎回、ああでもないこうでもないと試行錯誤が続きます。
その4月番で、私はメインキャラクターのコスチュームや小物のデザインを担当していたのですが、衣装の色に関しては、とにかく色見本をたくさん用意して、そのなかからピタっとくる組み合わせを決めるというやりかたでした。
色見本も4~5パターンを超えたあたりから、コスチュームの配色が似たり寄ったりになり、堂々めぐりになります。ピンクがいいのブルーのほうが似あうのか、だんだんわからなくなります。
「そういうときには、白黒にしてみるんだよ」
「白黒にする」とは、色味を抜いてモノトーンにしてみるということです。そうすると、濃淡のバランスがはっきりと浮かび上がるので、全体のトーンが確認できます。色のバランスが悪いときには、トーンもコントラストにもまとまりが感じられないものです。
「だからね、キャラも黒く塗ってみるんだよ」と杉井さんは続けました。子どもに人気のあるアニメキャラクターはたいてい特徴的なシルエットだといいます。造型は「まずシルエットで考えろ!」というこということなのですが、たしかに「鉄腕アトム」のアトムもあのツンツンした髪型が特徴ですし、「ONE PIECE」のルフィーも麦わらのシルエットで一発でわかります。
アニメキャラクターは情感の受け皿としてデザインする
D.A.ノーマンの『誰のためのデザイン?』という本は、デザインと機能の関係についての本です。単にスタイリッシュなデザインがいいデザインなのではなく、使う人の動きにピタッとくる人間中心に設計されたデザイン(HCD)が優れたデザインであると書いてありますが、アニメキャラクターも同じなのです。
「人の動きにピタッとくるアニメキャラクター」を言いかえると、「情感という心の動きにピタッとハマるアニメキャラクター」ということ。つまり、安心して感情移入できるキャラクターということです。
感情心理学では感情を「暴れ馬」に例えることがありますが、感情や情感という捉えどころのないものを無理に型にはめることはできません。そこでアニメでは、「暴れ馬」が自由に安心して暴れることができるデザインが必要になります。
そのときに、シルエットが単純でわかりやすいアニメキャラクターは受け皿として最適です。子どもは丸や四角や三角などのシンプルな形が好きです。単純な形のなかに自分だけの感情の物語を紡ぎます。シンプルでわかりやすいデザインは、子どもが自分の馬を自由に遊ばせるための容器なのです。
デザインされたキャラクターがシンプルかどうかは、黒く塗ればすぐにわかります。「キャラを黒く塗れ!」は心理学的にも説明できる大先輩の知恵だったのです。今度、アニメグッズを見かけたら、心の中でそっと黒く塗りつぶしてみて下さいね。(数井浩子)