ユニクロが、世界同一賃金をぶち上げたことが話題になっていますが、その真意はあまり正しく理解されていない気がします。今すぐに東京の店長が北京の店長と同一賃金になる、というミスリードも見られますが、そういうことではないでしょう。
日本人だけに有利な評価体系を改め、日本人だけひいきしていた評価基準を全世界の人を公平にすること。これが改革のキモだと思います。
多くの日本企業は「管理職や経営陣は日本人がやるべき」という理屈がまかり通ってきました。しかし、本当に優秀な人材の数には限りがありますし、世界を舞台に勝負するなら様々な環境で育った人の知恵を結集する必要があります。日本人だけでは人員不足の上、不十分なのです。
欧米グローバル企業の制度を成長市場に適用する
実はこの公平な制度は、欧米グローバル企業ではあたりまえです。ある程度以上の職位の仕事は、国籍、年齢、性別関係なしで「何ができるか」のみを基準に登用されます。
ユニクロは、そのやり方を目指すだけです。この体系に改められることで、おそらく一番得するのが新興国の実力がある社員です。
朝日新聞の記事によれば、ユニクロの賃金体系は大きく分けて3つのゾーンに分けられるようです。まず、ゾーン1「完全同一賃金ゾーン」は、ユニクロの経営を担う執行役員、上級部長ら51人。彼らはエリート中のエリート。このクラスになると国籍なんて関係なく、いかに会社を成長させるかがミッションです。
住むところはどこでもいいし、おそらく世界中を飛び回ることでしょう。居住地や国籍によって賃金を変えるなんてばかげています。ただ、現在の51人中41人が日本人であるというのは不自然かもしれません。今後、国籍も関係なく実力で競わせることで、様々な国籍の人がこの座を射止めることでしょう。
続いて、ゾーン2「実質同一賃金ゾーン」は、ユニクロの地域本部や現場の中核を担う管理職。国内や地域の経営方針を担う部長や、地域の店舗のレベルを底上げするスター店長がこれに当たるので、居住地域はある程度固定される場合が多いです。
彼らは「得がたい」人材であり、できる限り他社に引き抜かれたくないため、高給を用意する必要があります。フィリピン・マニラのスター店長がシンガポールのH&Mに引き抜かれる世界ですから、ある程度全体の賃金レベルを上げて、どこの国からも引き抜かれないレベルにしなくてはなりません。
したがって、おそらく日本人から見ても「高賃金」と思われる金額をもらう人が多くなるはずですが、「実質同一」というのがどのレベルになるかが気になるところですが。
「あなたが辞めても代わりはいる」層は仕事の奪い合いに
そして、ゾーン3「賃金体系と評価基準のみ統一」ゾーン。この約4000人は、店長や一般社員など基本的に代替可能な人材です。ユニクロ的には、このクラスの人材は「引き抜かれたらしゃあない」とあきらめられるレベルです。
賃金は「給料が安すぎて辞める」「給料が安すぎて人が集まらない」レベルでなければ良いということになり、その基準は国ごとに異なることになります。日本で月給10万円ではだれも来ませんが、インドネシアで月給10万円なら優秀な人材が殺到します。
ただし評価基準は統一になっており、「これができたら昇進」というのは明確になっているのでしょう。つまり、ゾーン2の「実質同一賃金ゾーン」に昇進できる基準は、どこの国の従業員でも同じになるわけです。
ユニクロで面白い仕事ができるかは、このゾーン2とゾーン3が境目になると思います。逆に言うと、ゾーン3にいる限り「あなたが辞めても代わりはいる」存在になる可能性が高くなります。全世界の多くの社員が、この座を奪い合うということになります。
これで得するのは誰か。例えば新興国で年収100万円でゾーン3の一般店長をやっている人が、その働きを評価されてスター店長としてゾーン2に昇格すると、一気に「実質同一賃金」の年収670万円以上に昇給する可能性があります。そうやって新興国の優秀な人材を育て、全世界展開を目指すというのは素晴らしい取り組みだと思うわけです。(森山たつを)
※日本以外の先進国の企業は、どのような評価、賃金体系を採用しているか、日本企業とはどう違うのか? 大石哲之さんとの共著『普通のサラリーマンのためのグローバル転職ガイド』(東洋経済新報社)。会社のルールが変化していく中でどうキャリアデザインしていくか迷っている人は、ぜひご一読ください。