先日、自民党が「ブラック企業名の公表」の参院選公約化を目指すと発表し、話題になっている。巷では「ブラック企業の判断基準や線引きはどうするのか」とか「公表する前に摘発しろ」といった意見もあり、実現は容易ではないだろう。
その一方で、ブラック会社で働く当事者からは「大いに支持する」「何とかしてくれ」という悲痛な声があるのも事実だ。ブラック企業アナリストを名乗る私としては、やはり現実に被害に遭っている人の立場からこの問題を考えてみたい。
「離職率が高ければブラック」とは言えないが
「社名公表」が難しい理由として、「離職率」や「長時間労働」というくくりだけではブラック企業と認定するのが難しいから、という指摘がある。確かにその通りだ。
たとえば飲食業界の離職率は高いが、だからといってすべての会社をブラック扱いするのはお門違いだ。経験を積んで独立するため、あえて厳しい環境を志向している人だっている。公務員や大企業の正社員のように、組織に骨をうずめる姿だけを基準に論じていても意味がない。
先日東洋経済から発表された「新卒離職率が低い、ホワイト企業トップ300」の同率1位(新卒3年で誰も辞めていない会社)92社のうちの1社に勤めている人が、「へー、ウチの会社入ってたんだ…。内情は超絶ブラックだけどな…」とつぶやいていたことを思い出す。
また、現法律下では、労使間で「三六協定」を結んでおけば、たとえ月100時間の残業をさせても手続き上は違法にならない。違法でないものを、ブラックというのは難しい。
問題はむしろ、「ホワイト企業」の陰で違法行為やハラスメントを平気で行う「真性ブラック企業」があとを絶たないことである。実際に悪質な会社があり、そこで働く立場の弱い人が存在していて、それがロクに取り締まられていないという事実に思いを馳せるべきなのだ。