現代のがん患者が抱える悩みの中で、深刻さを増しているのが「就労」の問題だ。たとえ治療により社会復帰が可能になったとしても、社会復帰を実現するにはまた違った困難が潜んでいるのだ。
この現状を踏まえ、2012年6月に改定された厚生労働省「がん対策推進基本計画」では、新たに取り組むべき事項として「がん患者の就労支援」が追加された。すでにいくつかの具体的な動きも生まれている。
罹患後の就労を困難にする「勤務時間のばらつき」
日本の全がんの5年相対生存率は57%となっており、がん罹患後も社会で活躍する人が増えてきている。医療技術の進歩により、がんを経験しながらも社会復帰できるようになってきた。
ただ、一度がんを患うと想像以上に、社会復帰が難しくなるという現状もある。厚生労働省の研究班によれば、がんに罹患した勤労者の30%が依願退職し、4%が解雇されたという。そこで厚生労働省は、がん対策推進基本計画の中で、がん患者の就労支援に力を入れることを明文化したのだ。
なぜ、がん経験者の就労に困難が付きまとうのか。理由のひとつに挙げられるのは、定期的な通院や細かなケアが必要となる場合が多いため、勤務時間がばらつく傾向にあること。もし再び症状が悪化すれば休職状態になる可能性もある。そのため、がん経験者は就労において想像以上の苦労を強いられてしまうのだ。
そこで、がん対策推進基本計画では、「がん以外の患者へも配慮しつつ」と前置きした上で、治療と勤労の両立支援、患者が働きながら受けられる治療体制、事業者のがん患者に対する理解や知識の蓄積、差別の撤廃を目標に掲げた。
厚生労働省の2013年度予算案には、「がんの緩和治療体制整備及び職業生活の両立」に31億円の予算が割かれ、病院などに社会保険労務士や産業カウンセラーなどを配置し、「治療と職業生活の両立」に関する相談支援や情報提供を行いながら、就労支援機関などとの連携を強化する施策も盛り込まれている。
治療と仕事の「両立セミナー」や「電話相談」も
企業側への働きかけも進む。厚生労働省は企業や団体への委託事業として、がん検診受診率50%以上を目標に活動する「がん検診企業アクション」プロジェクトを推進。現在950以上の企業や団体の賛同を得ている。
みずほ情報総研も同委託事業として、企業の人事労務担当者を集めた「治療と仕事の両立支援セミナー」を開催。がん罹患就業者の現状や問題点、罹患者が抱える悩みなどを説明しながら、建設的な議論を行っている。
民間でもがん患者への就労支援を行う団体は増えている。たとえば一般社団法人CSRプロジェクトでは、ソーシャルワーカーや社会保険労務士が電話で、経済的な不安や雇用継続などの相談に乗る「就労セカンドオピニオン~電話で相談・ほっとコール」を行っている。
「日本人の死因1位」として長らく認知されてきた分、「がん」という言葉にネガティブなイメージを抱いてしまうのは仕方のないところもある。しかし、そのイメージは時に過剰となり、がん患者の社会復帰を妨げる障害にもなっている。医療技術の進歩とともに、がん患者の就労支援が一刻も早く進むことを期待したい。(有井太郎)