景気回復期に肝に銘じたい「好事魔多し」 やり手社長の敵は自分の慢心

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   アベノミクスによる景気好転で、業績の先行きに明るさがうかがわれ始めた昨今。経営者が胸に刻むべきなのは「好事魔多し」ということわざではないでしょうか。「良いことには邪魔が入りやすいものだから、有頂天になってはいけない」という戒めの言葉です。

   好調が続いているときは、自分自身も知らないうちに慢心し、自分のやり方を過信したやり方を進めてしまいがちだが、あとで大きな痛手となって返ってくるのだということ。今のうちから心しておくのがよろしいかと思います。

待遇改善せず業務量を増やし集団退職された例も

良いことには邪魔が入りやすいから有頂天になってはいけない
良いことには邪魔が入りやすいから有頂天になってはいけない

   K氏は、オーナー系上場企業M社で雇われ社長を10年務めた経営者です。いまは、急成長で上場を果たした精密機器メーカーの顧問を務めています。

   M社の社長就任の要請を受けた時、創業社長A氏はまだ50代後半の脂がのっている時期。業績も5年連続の増収増益で、順風満帆を絵に描いたような状況でした。

   A社長は超ワンマンのやり手で、自身の考える戦略を次々実践させることで業績の目覚ましい進展をはかってきました。そんな中で当時常務のK氏に、突然の後継就任の要請が。

「そりゃ面喰らいましたよ。いきなり予想もしない要請で、もちろんはじめは固辞しましたよ。社長がまだ若くて元気で、業績絶好調のこの時期にそりゃないでしょ、と」

   そんなK氏を承諾させた社長の一言が、「好事魔多し」だったと言います。A社長は自身は会長になり、K氏との二頭体制で、お互いが突っ走ることなく進むやり方に変えたいのだとの話を聞かされました。

   常務のままでも、それはできるのではと進言しましたが、K氏がトップに立つことではじめてA氏の慢心を抑えることができると言われ承諾。結果、10年もの間、二頭体制の一翼を担って安定成長を果たしてきたのだそうです。

   A社長の話には、私自身も合点がいく事例をたくさん知っています。それまでの成功路線に陶酔して拡大方針を独断で推し進めた結果、実は社員を壊滅的に疲弊させていた経営者。社員がおとなしいのをいいことに、待遇を改善せずにあれこれ理由を付けて業務量を増やした末に、突然集団退職という無言の抗議を突きつけられた例もありました。

人並み外れたけん引力と裏腹の慢心

   創業経営者は、言ってみれば組織における独裁者であり、会社経営に対する自分の思いを強く打ち出すのはごく日常的な風景でもあります。

   これが業績好調であれば、周囲は経営者に批判的なことが言えなくなり、静まり返るものです。これが行き過ぎて、誰の進言にも耳を貸さなくなり、知らずのうちに思わぬ落とし穴にはまり込んでしまうというわけです。

   人並み外れたけん引力があるからこそ、組織を成長させることができるワンマン経営者です。しかしそのワンマンに慢心が生まれれば、経営を揺るがす重大な事件につながったり、自社に対する悪いうわさの流布や離職率の急激な上昇といった形で現象面に弊害が現れ、経営危機に追い込まれるケースもあります。

   さて、いまは精密機器メーカーの社長から「経営者の帝王学を教えてほしい」と乞われて顧問を勤めるK氏ですが、自分のなすべきことをこう説明しています。

「うちの社長も超ワンマン。彼の力があって、ここまで来たわけだけどね。いまの僕の役割はただひとつ、社長の独走を注視することだけさ」

   細かい仕事には多くを語らず、もっぱら役員会議で社長が突っ走りそうになるたびに、「社長! 好事魔多しですぞ」と耳打ちしているそうです。(大関暁夫)

大関暁夫(おおぜき・あけお)
スタジオ02代表。銀行支店長、上場ベンチャー企業役員などを歴任。企業コンサルティングと事業オーナー(複合ランドリービジネス、外食産業“青山カレー工房”“熊谷かれーぱん”)の二足の草鞋で多忙な日々を過ごす。近著に「できる人だけが知っている仕事のコツと法則51」(エレファントブックス)。連載執筆にあたり経営者から若手に至るまで、仕事の悩みを募集中。趣味は70年代洋楽と中央競馬。ブログ「熊谷の社長日記」はBLOGOSにも掲載中。
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