登山服はカンボジアでもコロンビアでも問題ない
私が登山に使っているパタゴニアの服もベトナム製で、カンボジアやコロンビアでも作っています。高度6000メートル、気温がマイナス15度といった場所で使う服なので、少しでも縫い目から風が入ってきたり、水が漏れたりすれば命に関わります。妥協などできず、完璧な仕上がりでなくてはいけません。
メイドイン・ベトナムや、メイドイン・カンボジア、メイドイン・コロンビアの登山服を着て、いくつかの雪山や高山に登ってみましたが、まったく問題ありませんでした。なので、しっかりしたブランドの製品であれば「メイドイン途上国」に関する偏見はなくなってしまいました。
伝統芸や職人芸といったものを考えるときに、これは根本的に差別化できるのだろうか、と考える必要があると思います。一見すると独自の技術のように見えて、単にトレーニングすれば誰でもできるようになるものも多く混じっているように思えるからです。
これから多くの会社が、職人芸ではない領域で勝負していかなくてはいけません。たとえばパタゴニアの服の発想は、登山に関わるニーズを熟知していなくては、決して生まれません。ハーネスに干渉しないポケット、ザックの重みで浸水しないように肩の縫い目をずらしたり、ファスナーが顎に当たらないようにずれていたりと芸が細かい。職人技以外のところで、設計が卓越しているのです。
職人芸、伝統芸、熟練の技といったセンチメンタルな言葉にどっぷり浸かってしまうと、現実を見ることを忘れてしまうのかもしれません。そうならないようにしたいものです。(大石哲之)