テレビアニメの仕事は「街の洋食屋さん」 さらっと流れて記憶に残ればいい

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「テレビアニメはさらっと流れていくもの」
「だけど、文化の垂れ流しをしてはいけない」

   25年前、最初のスタジオをやめるときに、師匠のひとりから贈られた言葉です。いつも寡黙な職人気質の師匠の一言は今でもときどき思い出します。

   その師匠は、『ルパン三世 カリオストロの城』の原画も担当したベテランアニメーターだったので、新人の私たちにとっては雲の上の人でしたが、ときどき「カリオストロ・ノート」という覚え書帳から楽しい薀蓄を語ってくれました。

サブカルには特Aグルメと別のよさがある

アニメーターは「消えても記憶に残る作品」になることを祈りながら、今日も制作に励む
アニメーターは「消えても記憶に残る作品」になることを祈りながら、今日も制作に励む

   『ルパン三世』は、今でも人気のあるアニメ番組です。つくり手としても、手がけた作品が長く愛されるのはうれしいものです。しかし、「本来、テレビアニメは30分で消えてなくなるものだ」と師匠は言います。

   「ラーメン」「カツカレー」「ハンバーグ」はB級グルメといわれます。庶民のグルメです。たまには美味しい三つ星フレンチの特Aグルメもたまにはいいのですが、毎日食べる食事は気楽なものが一番です。

   文化も同じようなことがいえます。伝統古典芸能や、古美術や歴史的芸術品、いわゆるハイカルチャーといわれる芸術は心を豊かにしてくれます。長い歴史をもつ芸能や芸術は社会にとっても重要な文化財なので、次世代に引き継いでいくことは大切です。

   一方で、マンガやアニメなど、サブカルチャーあるいはカウンターカルチャーとよばれるものは、普通の人たちが生活のなかで気楽に楽しめる文化といえます。「庶民の娯楽」として出発したサブカルは、いってみれば「街の洋食屋さん」のような存在です。

   サブカルを創造性という観点からみれば、ハイカルチャーという既存のものを「壊し」、自分たちに親和性のあるものを題材にして、新しい視点を「創る」という点が特徴なので、これぞ「B級グルメ」といっても過言ではないのかも知れません。

「記憶に残るB級グルメの味」をめざして

   街の洋食屋さんは、ほぼ毎日同じものを作ります。カレーやハンバーグの新メニューを開拓することはあっても、いきなり和風懐石料理を始めたりはしません。

   テレビアニメも同じです。ひとつの作品は第一話から最終回まで、同じ設定、同じキャラクター、同じテイストで作られます。ときどき温泉回や海水浴の回などスパイシーな変化球もありますが、基本の味は一緒です。

   冒頭の師匠のことばは、「だからこそ気をつけろ」という意味なのです。「文化の垂れ流しをしてはいけない」というのは、毎回同じようなものだからといっても、お客さまに恥ずかしくないようなものを毎週出せるようにしなさい、ということです。

   しかし、気合いをいれてじっくりアニメをつくっても、スケジュールに追われて短期間で作ったとしても、悲しいことに一見、差がないこともあります。文化の垂れ流しとなるかどうかは、終わってからでしか分かりません。

   あのアニメの味つけは美味しかったなあ、と観た人の記憶に残ったとしたら、多分「文化の垂れ流し」ではないのでしょう。そういう意味で、「テレビアニメは30分で消えてなくなるもの」でいいのです。「消えても記憶に残る」B級グルメになることも、テレビアニメには求められているのだ、と師匠は伝えたかったのかもしれません。(数井浩子)

数井浩子(かずい・ひろこ)
アニメーター、演出家。『忍たま乱太郎』『ポケットモンスター』『らんま1/2』『ケロロ軍曹』をはじめ200作品以上のアニメの作画・演出・脚本などに携わる。『ふしぎ星の☆ふたご姫』ではキャラクターデザインを担当した。仕事のかたわら、東京大学大学院教育学研究科博士後期課程に在籍。専門は認知心理学
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