テレビアニメの仕事は「街の洋食屋さん」 さらっと流れて記憶に残ればいい

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「記憶に残るB級グルメの味」をめざして

   街の洋食屋さんは、ほぼ毎日同じものを作ります。カレーやハンバーグの新メニューを開拓することはあっても、いきなり和風懐石料理を始めたりはしません。

   テレビアニメも同じです。ひとつの作品は第一話から最終回まで、同じ設定、同じキャラクター、同じテイストで作られます。ときどき温泉回や海水浴の回などスパイシーな変化球もありますが、基本の味は一緒です。

   冒頭の師匠のことばは、「だからこそ気をつけろ」という意味なのです。「文化の垂れ流しをしてはいけない」というのは、毎回同じようなものだからといっても、お客さまに恥ずかしくないようなものを毎週出せるようにしなさい、ということです。

   しかし、気合いをいれてじっくりアニメをつくっても、スケジュールに追われて短期間で作ったとしても、悲しいことに一見、差がないこともあります。文化の垂れ流しとなるかどうかは、終わってからでしか分かりません。

   あのアニメの味つけは美味しかったなあ、と観た人の記憶に残ったとしたら、多分「文化の垂れ流し」ではないのでしょう。そういう意味で、「テレビアニメは30分で消えてなくなるもの」でいいのです。「消えても記憶に残る」B級グルメになることも、テレビアニメには求められているのだ、と師匠は伝えたかったのかもしれません。(数井浩子)

数井浩子(かずい・ひろこ)
アニメーター、演出家。『忍たま乱太郎』『ポケットモンスター』『らんま1/2』『ケロロ軍曹』をはじめ200作品以上のアニメの作画・演出・脚本などに携わる。『ふしぎ星の☆ふたご姫』ではキャラクターデザインを担当した。仕事のかたわら、東京大学大学院教育学研究科博士後期課程に在籍。専門は認知心理学
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