なぜ公金の管理がこうも緩くなるのか。A市の社会福祉協議会の経理担当だった係長B(男性、40)が、2010年7月から1年4か月の間に計4000万円以上を横領していたことが、3月末に公表された。横領は19回におよび、金は競馬などにつぎこんでいたという。
Bは、介護保険収入を管理する普通預金口座から不正に現金を引き出し、カラーコピーで定期預金証書を偽造して、定期預金へ移したように偽装していた。12年4月に転勤になったが、今年3月まで発覚しなかった。後任の担当者が満期になる定期預金の処理をしたときに、たまたま偽造された証書を見つけたそうだ。
「二度としません」と繰り返すだけでは何も変わらない
A社協のホームページによれば、平成23年度の一般会計の収入4億8500万円のうち、もっとも多いのが介護保険収入(1億2500万円)、次いで受託金収入(7200万円)、経常経費補助金収入(5000万円)などの名目で市の公金があてがわれている。さらに市民から集める会費や共同募金の配分金も、それぞれ2000万円ずつある。
つまり社協の役職員は、公金や市民の善意による寄付金からありがたく給料をもらっていることになる。それをBは私利私欲で食い物にし、Bの上司は公金を管理するという重要な職務を放棄してしまっていた。
ここ数回、農協の横領を扱ってきたが、同じ非営利団体である社協でも職員による横領が相次いでいる。今回の事件にも「ありがちな問題点」が満載だ。
・Bは勤続18年のベテラン。経理責任者として「誰からも信頼されていた」
・上司は経理事務をBひとりに任せきりにしていた
・預金口座の届出印は、上司が保管していたが、Bは保管場所に自由にアクセスできたため、ダブルチェックが全く機能しなかった
・Bは、他の職員がいない土・日に出勤して、誰にも見られない状況で不正を続けることができた
・コピーした定期預金証書という見え透いた手口にもかかわらず、誰一人として異常に気づかなかった
近隣の社協でも重大な横領事件が頻発しているにもかかわらず、A社協の会長は「管理が甘かった」「このようなことが二度と起きないよう、現金管理システムを改善する」という相変わらずの謝罪に終始している。
おそらく本気で言っているのだろうが、この期に及んではむなしく響いてしまう。職員任せの甘い管理を放置しながら、発覚したらトップが「すみません。次からはちゃんとやります」と頭を下げ、それで何となく許される。そして、のど元を過ぎると熱さを忘れてしまう。こんな繰り返しが許されるのは、地域性の強い組織の悪いところではないか。
「利息をつけて返したから」で処分を甘くするな
公金管理には本来、銀行よりも厳しい内部統制が求められる。再発防止を決意するなら「温情主義」と安易な「性善説」とは決別せざるを得ない。まずは不正に対する厳罰化が必要で、Bに対しては、懲戒解雇はもちろんのこと刑事告訴も検討すべきだ。
「親族から援助を得て、利息も付けて返還するようだ」という話を聞くと、「かわいそうに」「返すなら許してあげれば」と考えてしまうのが人情かもしれない。しかし、処分の甘さは次の不正の温床となる。職員全員に「市民の税金を横領したら地元での将来はない」という強いメッセージを送らなければ、問題はなくならない。
ずさんな管理をしていた上司にも、口頭注意や戒告などの当たりさわりのない対応ではなく、降格等の踏み込んだ処分が必要だ。社協に公金をつぎ込み幹部を派遣している市の責任も見過ごせない。「天下り先である身内に甘い」と批判されているのも事実であり、市民に対する背信行為を放置してはいけない。
これまで「身内を疑うなんて」と敬遠されてきたかもしれないが、「どんな人でも、放っておくと悪いことをするかもしれない」という性悪説的な発想による管理への転換も必要だろう。
とはいえ、いくら不祥事を重ねても組織が取りつぶされないと社協側が思っている限り、危機感を強めろと言っても変わらない。議会や市民が常に厳しい目でチェックし、変われない組織には退場を命じるくらいのプレッシャーをかけることも必要だ。各社協には、今度こそ奮起を期待する。(甘粕潔)