ブラック企業の「社名公表」ができないワケ

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   自民党がブラック企業の社名公表を検討中だそうだ。「ここは人をこき使うブラック企業ですよ!」と宣言なんてされたら商売あがったりだから、すごいプレッシャーになるはずだ、というロジックらしい。

   ところで、恐らく多くの人はある疑問を抱いたはず。

「社名公表するくらいなら、最初から摘発すればいいじゃないか」

法律に違反してないから摘発も公表もできない

   なぜ摘発ではなく、社名公表レベルなのか。それは、そもそも“ブラック企業”としてネットで名前の挙がっている大多数の企業は、別にこれといった法律違反はしていないからだ。

   凄く勘違いしている人が多い点だが、日本において、過労死認定基準である月100時間を超える残業で従業員を働かせることも、辞令一枚で全国転勤させることも、有給休暇の取得を制限することも、手続きさえ踏んでいれば何ら違法ではない。

   たとえ職場で誰かが過労死しても(後から管理者責任が問われることはあっても)、100時間残業させること自体は違法でも何でもないのだ。だから、実際に「karoshi」が英単語になるくらい日本人はよく死ぬけれども、それで誰かがお縄になったなんて話は誰も聞いたことがないだろう。

   きっと与党は、法律に違反していないから摘発なんてできない→だから社名公表でお茶を濁そう、という狙いなのだろう。だが、法に反していない会社の名前をさらすこともやっぱり現実には無理だ。

   というわけで、ブラック企業の「社名公表」は、選挙向けのアドバルーン以上の意味はない、というのが筆者の予想だ。

   もちろん、筆者もkaroshiが起こりうるような現状があるべき姿とは考えていない。では、対症療法ではない本質的な改革とは何か。それは「きっちり守っているにもかかわらず“ブラック企業”なんて呼ばれてしまうような日本の労働法制」にメスを入れることだ。

「忙しかったら人を雇え」ができるルールへ転換を

   そもそも残業文化というのは、終身雇用を守るため、労使が一体となって生み出してきた共同作品だ。仕事が増えた分に応じて採用を増やせば、(後で仕事が減った時に)誰かのクビを切らないといけない。

   それを避けるために「月45時間という法定の残業上限時間を超えて残業できるようにしましょうね」というのが労使間で結ぶ36協定であり、長時間残業を合法としているものの根っこである。

   それを廃するのなら、当然、業務量に応じて雇用調整するツールも必須となる。要は「残業でも何でもして、今いる社員の雇用を守れ」から「忙しかったら人を雇え、暇になったら解雇していいから」というルールへの転換である。

   ちょうど政府の有識者会議では、解雇規制の緩和が議論されている最中だ。できれば労働市場全体を見据えたビジョンの中で、解雇やブラックといったホットなテーマについて議論して欲しいというのが筆者のアドバイスである。

※離職率の高さも注目されているようだが、そもそも勤続年数をあまり重視していない職種では賃金がフラットであり、離職率も高い傾向がある。H17年大卒者3年内離職率は製造業で22.2%、宿泊・飲食サービス52.9%、小売業44.1%であり、政府が一概に線を引けるものではない(厚労省データより)。
※サービス残業については争う余地があるかもしれない。だが、これも「椅子に座っていた分だけ成果が上がるはずだから、その分の時給を支払え」という戦前の工場的発想が時代に合っておらず、厳密に適用すれば経営困難となる企業が続出するだけだ。
人事コンサルティング「Joe's Labo」代表。1973年生まれ。東京大学法学部卒業後、富士通入社。2004年独立。人事制度、採用等の各種雇用問題において、「若者の視点」を取り入れたユニークな意見を各種経済誌やメディアで発信し続けている。06年に出版した『若者はなぜ3年で辞めるのか?』は2、30代ビジネスパーソンの強い支持を受け、40万部を超えるベストセラーに。08年発売の続編『3年で辞めた若者はどこへ行ったのか-アウトサイダーの時代』も15万部を越えるヒット。ブログ:Joe's Labo
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