ブラック企業の「社名公表」ができないワケ

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   自民党がブラック企業の社名公表を検討中だそうだ。「ここは人をこき使うブラック企業ですよ!」と宣言なんてされたら商売あがったりだから、すごいプレッシャーになるはずだ、というロジックらしい。

   ところで、恐らく多くの人はある疑問を抱いたはず。

「社名公表するくらいなら、最初から摘発すればいいじゃないか」

法律に違反してないから摘発も公表もできない

   なぜ摘発ではなく、社名公表レベルなのか。それは、そもそも“ブラック企業”としてネットで名前の挙がっている大多数の企業は、別にこれといった法律違反はしていないからだ。

   凄く勘違いしている人が多い点だが、日本において、過労死認定基準である月100時間を超える残業で従業員を働かせることも、辞令一枚で全国転勤させることも、有給休暇の取得を制限することも、手続きさえ踏んでいれば何ら違法ではない。

   たとえ職場で誰かが過労死しても(後から管理者責任が問われることはあっても)、100時間残業させること自体は違法でも何でもないのだ。だから、実際に「karoshi」が英単語になるくらい日本人はよく死ぬけれども、それで誰かがお縄になったなんて話は誰も聞いたことがないだろう。

   きっと与党は、法律に違反していないから摘発なんてできない→だから社名公表でお茶を濁そう、という狙いなのだろう。だが、法に反していない会社の名前をさらすこともやっぱり現実には無理だ。

   というわけで、ブラック企業の「社名公表」は、選挙向けのアドバルーン以上の意味はない、というのが筆者の予想だ。

   もちろん、筆者もkaroshiが起こりうるような現状があるべき姿とは考えていない。では、対症療法ではない本質的な改革とは何か。それは「きっちり守っているにもかかわらず“ブラック企業”なんて呼ばれてしまうような日本の労働法制」にメスを入れることだ。

人事コンサルティング「Joe's Labo」代表。1973年生まれ。東京大学法学部卒業後、富士通入社。2004年独立。人事制度、採用等の各種雇用問題において、「若者の視点」を取り入れたユニークな意見を各種経済誌やメディアで発信し続けている。06年に出版した『若者はなぜ3年で辞めるのか?』は2、30代ビジネスパーソンの強い支持を受け、40万部を超えるベストセラーに。08年発売の続編『3年で辞めた若者はどこへ行ったのか-アウトサイダーの時代』も15万部を越えるヒット。ブログ:Joe's Labo
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