大手電機メーカー出身で、老舗中小電機機器商社C社に出向して部長職にあるHさんからこんな相談を受けました。C社に行って驚いたのは、物事を決める会議はちゃんとあるのに、そこで決められたことが長続きしないこと。
「何かトラブルが起きて、社長が『明日からこういうルールでやっていこう』と指示をすると、担当部長連中は『ハイ分かりました』という返事はする。だけど実際には長続きしなくて、気がつくと元に戻っているんですよ。これじゃ何の改善も進まない。製造ラインを抱えたメーカーじゃ、こんないい加減なやり方は考えられない話です」
「新しいやり方が定着しないのも仕方ない」と諦めムード
そんなことが続いたある時、今度はHさんの部署でトラブルが発生し、同じように社長から新ルールの指示がありました。Hさんはこれを部内に徹底し、継続して遂行するよう厳しい管理をしました。
するとルール変更から2か月ほどして、後工程の業務で関わるI部長から、こんなことを言われたそうです。
「その面倒くさいやり方、いつまでやるんですか。社長も過去のトラブルは忘れているんだから、いい加減終わりにしないと。あなたのいた大企業と違って、うちでは優等生みたいな仕事は評価されない。我々には、我々がやりやすい要領がある。社長が怒ったら首を縮めて通り過ぎるのを待てばいいってことぐらい、そろそろ分かってくださいよ」
これにはHさんは呆れてしまい、思わず社長のところに直訴に行きました。すると社長はため息まじりにこう言ったそうです。
「僕は自分の指示を、完全に忘れているわけじゃないよ。ただ、うちのような老舗で新しいやり方が定着しないのも、仕方ないのかなと諦めているところもある。長年のやり方を変えていくのは、並大抵のことじゃできないんだ」
業歴70年、文句をつけてきたⅠ部長は社長より職歴が長い。職人気質の気難しい従業員も多くて手を焼いているとのこと。もちろん今のままでいいとは思っていないが、社員を束ねる管理職がヘソを曲げて社内が混乱しても困る。
Hさんは、「社長がそれを許していたら、何も変わらないじゃないですか!」と強く訴えてはみたものの、困った社長の顔を見て私に打ち明けてみたようです。