「成長するビジョン」がないと不安になってしまうもの
ヒアリング後、H店長の将来について思いを馳せてみました。B社がいくら販売代理店を手広くやっているとはいえ、メーカーに大きく左右される経営であることに変わりはない。いくら出世しても、店長以上のポストはほとんどない。
自分の力に自信を持ち、「もっと成長したい」と思う人なら、この会社では物足りなくなり、一時的に給与が下がっても新たな挑戦の場が欲しくなるのも自然かもしれません。
私はH店長とのやりとりを社長に伝え、考えをうかがいました。そこで分かったことは、社長自身が、いつしか自分の「ビジョン」を見失っていた、と自覚していたことでした。
「10年前に独立したときは、狭い業界でもいいから日本一を目指したい、できれば上場企業にしたいと思っていたなあ…。でもここ数年は、本部に認められて店舗網を拡大することにばかり注力してしまった」
もしも会社を上場させるとしたら、既存の代理店を伸長しつつ、新たな収益の柱を作らなければなりません。隣接する別商品の代理店事業を組み合わせ、自社がイニシアチブを取れる代理店以外の事業を成功させることも欠かせないでしょう。
その後社長は、H店長を中心に幹部候補をメンバーに「5年以内の上場をめざす」というビジョンを掲げた会議を組成し、具体的目標と戦略を検討し始めました。
あれから3年、H氏は取締役となり、B社の挑戦は順調に進んでいるようです。予定通り上場できるかどうかは微妙ですが、問題はそこではなく、社員が共有できる目標に向かっていくことに意義があるのではないか、と私は思っています。(大関暁夫)