四国某県のA農協の畜産課加工販売センターで経理を担当していた派遣社員B(女性、52歳)が、約2500万円を着服していた。
Bは2010年9月から今年3月にかけて、集金担当者から受領した畜産加工品の販売代金を銀行口座に入金する際に、一部を抜き取る犯行を繰り返していた。1回あたり3万円~300万円、着服回数は140回に及んだ。
着服金は、息子が経営するインターネット関連会社の運転資金に使ったとのことである。汚いお金で助けてもらった息子は、今どんな気持ちなのだろう? 知りながら受け取っていたのなら同罪だ。
不正件数は数十件。横領社員に退職金支払う「温情」も
集金額と口座入金額が異なれば、すぐにバレそうなものだが、なぜ140回も見過ごしたのか。原因はBが「一人で経理を担当」しており、着服分を大口取引先(県外の農協)に対する未収金として処理し、不正を隠ぺいすることができたからだ。
「同じ農協だから回収は間違いないだろう」と、請求書も発行せず、未集金のチェックも行われていなかった。派遣社員一人に経理を任せ、まさか不正は起きないだろうという能天気な管理。これでは「どうぞお好きにお取りください」と言っているようなものだ。
驚くことにA農協では長年不祥事が相次いでおり、2007年10月以降、なんと5回もの業務改善命令を県から受けている。不祥事の内容は産地偽装や不正融資、横領など幅広く、件数も数十件というレベルだ。
地域共同体に密着した組織や企業では、不正の犯人に対して甘い処分しか下さない「温情主義」が好まれる傾向がある。一見やさしいように思えるが、責任を厳格に追及すれば組織の上層部の怠慢が明るみになるからでもある。そういう馴れ合い体質が、不正続発の元凶となっている可能性もある。
今回はBを刑事告訴するそうだが、過去には横領したのに退職金を払って諭旨解雇としている例もある。賞罰は、経営トップの価値観や方針を如実に反映する。軽すぎる処分は「なんだ。カネを盗んでもこの程度か」という意識を蔓延させてしまう。
横領は金額に関わらず懲戒解雇とし、損害賠償を厳しく求めるべきだ。多額、長期間の悪質な横領には、刑事告訴も辞さない姿勢を貫く。「横領なんかしたら地元で暮らしていけなくなるぞ!」くらいの強いメッセージを発しないとダメなのではないだろうか。