公立学校共済組合が運営するホテルが、職員7人による横領を公表した。発覚のきっかけは、昨年10月に組合支部に届いた告発の投書。「支配人が横領しているので調べてほしい」という内容だった。
調査の結果、支配人だけでなくその部下も横領に手を染めていたことが発覚したうえ、組合支部の事務次長による宿泊代金などの着服も芋づる式に判明した。発覚後、元支配人は12月に、元事務次長は今年3月に自殺している。自業自得ではあるが、何とも痛ましい結末だ。
「上司が横領していたので自分も」
横領の手口は、売上金のスキミング(抜き取り)だ。元支配人は「月間目標を達成したので、売上の一部を来月に回すように」などと部下に指示しつつ、約2年半で1700万円を自分のポケットに入れていた。元事務次長は7年以上にわたり、売上金の一部を未収扱いにするよう部下に指示し、約300万円を横領している。
さらに、元支配人の横領を知った係長2人も、宴会の利用人数を少なくごまかすなどの手口で売上金を抜き取っていた。「上司が横領していたので自分もやってしまった」そうだ。4人とも、着服した金は生活費の補てんや遊興費に使っていた。
係長2人について、組合は懲戒解雇とし警察に刑事告訴。さらに、不正を知りながら黙認したホテルの職員3人を減給等の懲戒処分とした。いずれの不正も、周囲の部下を巻き込んで帳簿を改ざんしていたため、発見が遅れた。
恐らく係長2人も、最初は不本意ながら元支配人の指示に従っていたのではないか。そのうちに不正に加担するストレスや、「支配人だけがいい思いをしやがって」という不満感が高まり、「ならば自分だって」となってしまった。
この事件から学べることは何か。まず「組織は頭から腐る」ということをトップは改めて肝に銘じたい。企業風土を考えるときに「トーン・アット・ザ・トップ(tone at the top)」という表現がよく使われる。トーンとは、楽器の音色や絵の色調のこと。組織の上に立つトップの言動は、良くも悪くも強いトーンとなって、部下の価値観や行動規範に大きな影響を与えるのである。
横領の連鎖を招いた「内部通報制度」の不備
このような不正を防ぐには、紛失、盗難、横領のリスクが最も高い現金の取扱いはできるだけ少なくしたい。完全なキャッシュレスは無理にしても、例えば、一定金額以上の取引は、振込手数料を自社負担としてでも銀行振込にすべきだろう。
あわせて、特に現金取引の場合は領収書の発行を徹底して、記録を残すことも不正防止につながる。その上で、取引先と現金を授受する者と社内の帳簿処理をする者は明確に分け、入出金記録の第三者チェックをできるだけ頻繁に行う。
とはいえ、ホテルの支配人のようなトップによる不正は、ダブルチェックなどの機能を無力化させてしまう。実際、上司の命令にノーと言うのは難しく、支配人や役員となればなおさらだ。そんなときの最後の砦となるのが「内部通報制度」だろう。
公立学校共済組合は再発防止策として、「抜き打ち検査や公認会計士など専門家による会計処理のチェックを行う」「内部通報制度のあり方を見直す」などと述べている。通報窓口を社外に設置したり、利用方法について周知徹底するなどしていれば、もっと早く組合にアラームが届き、横領の連鎖も防げたかもしれない。
ホテルの人心は相当乱れているだろうが、今こそ組合トップの健全かつ毅然としたトーンを浸透させ、これらの対策を確実に実施して欲しい。(甘粕潔)