「グローバル人材」というと、従来は多国籍企業に所属し、欧米のビジネスマンと互角にやりあえるビジネススキルを持つスマートなエリート日本人、と理解されていた節がある。しかし、現在はその定義が若干変わりつつあるようだ。
経済産業省の「国際化指標」調査によると、今後5年以内に最も重要と思われる地域として、北米と欧州諸国をあげた日本企業は、合計してもわずか13%ほど。残りの回答企業のほとんどは中国やインド、東南アジアのアセアン諸国をあげている。
舗装されていない道、ハングリー精神のインド
日本製品の販路を新興国に開拓したり、日本の技術を輸出して現地のものづくり力アップやインフラ整備に貢献したりして、日本にも利益をもたらすことができる人。現地の文化に泥臭く適応しながら、たくましく働くことのできる人――。今どき求められる「グローバル人材」とは、こんなタイプだ。
新しいグローバル人材に魅力を感じ、海外企業で就業体験に参加する学生もいる。昨年、経済産業省が主催した海外インターンシッププログラム「GLAC」に参加したMさん(21歳)は、インドのチェンナイで働く日本人ビジネスマンを目の当たりにして刺激を受けたそうだ。
「舗装されていない道路をクルマで通勤し、すべての業務は英語で行い、食事はすべてカレー。そんな環境に適応し、自己主張の強いインド人たちをマネジメントしながら働いているビジネスマンを見て、日本の代表として海外で働くプライドを感じました」
現地でビジネスを行うためには、従業員はもちろん、周辺地域の人たちからも信頼や尊敬を得なければならない。誰もがハングリー精神を持つインド人たちの声に耳を傾けていた日本人の姿が印象的だ。
自分自身も、インターンシップの中で、自分の意見を言わなかったり、分からないことを自分から確認しないと、周囲から置いていかれるという経験をした。
Mさんがインドに滞在したのは18日間。同じ年代の現地学生と交流したり、インドの民族衣装を体験させてもらう楽しい機会もあったが、観光旅行では行かない現地の場所に足を踏み入れ、スラムの実態を目の当たりにすることもあった。
帰国後も「海外ニュースが目にとまるように」
ベトナムのホーチミンでインターンシップに従事したWさん(22歳)は、日本の生活感覚からすると「非日常」の連続だった日々を振り返っている。
「ホテルのサービスも道路事情もまるで違うし、市場にも日本にない活気がありました。驚いたのは、私の勤め先には『残業をしない文化』があったこと。時給で作業をしている人はもちろんのこと、大きな仕事を任されている人ですら、時間になると仕事を切り上げてプライベートに切り替えていたのが印象的でした」
Wさんは、海外での経験は一時的だが、帰国してからの意識を変えるためにもインターンシップは有効だという。渡航前には見逃していた海外ニュースに目がとまり、興味を持って読めるようになったそうだ。
「これからの世界でグローバルに活躍できる人は、多くの視点を持っている人だと思います。欧米先進国や日本の常識だけで物事を進めず、新興国の視点をも使い分けて、いろいろな動き方ができる人になれたらいいと思います」
今後、海外との取引が増えたり、外国人を日本に受け入れたりする機会は増えるはずだ。それに対応するためにも、多様性を受け入れる柔軟さを日本社会が準備しておく必要がある。海外で経験を積んだ若者たちに寄せられる期待は大きいだろう。