2012年3月に食道がんを告白した作詞家のなかにし礼氏が、わずか半年で現場復帰を果たしたことは記憶に新しい。その治療法は「陽子線治療」と呼ばれる先進医療だ。
ただしこの先進医療、「通常の治療と共通する部分」以外の費用は、全額自己負担となってしまう。健康保険制度には「高額療養費制度」もあるが、それも先進医療に係る費用には適用されない。
健保の「高額療養費制度」で負担軽減される場合も
なかにし氏が受けた「陽子線治療」は放射線療法の一種で、「粒子線療法」とも呼ばれる。一般的な患部を手術によって取り除く外科療法と違い、がんの病巣だけに陽子線をヒットさせるため、体への負担が少ない。より1カ所に集中した、がんに効く治療法だ。
長期入院が必要ない場合もあり、通院治療が可能なのも画期的と言える。最近では、全国で8番目となる陽子線治療施設の名古屋陽子線治療センターで治療が始まり、名古屋地域は沸き立っている。
肉親が食道がんを経験したという男性によると、外科手術で患部を除去すると神経を切断され、その痛みが続くそうだ。胃の切除を伴う場合、摂取できる食事の量もかなり減る。再発がなくとも次第に体力は衰え、長くは生きられなかった。「あの時、夢の治療法があったら」と、無念そうに語る。
陽子線などの先進医療を除く、通常のがん治療に健康保険が適用される場合、高額療養費制度で負担を軽減することも可能だ。高齢者を除けば一般に窓口での自己負担は3割だが、さらに高額な医療費については申請後に承認されると戻ってくる仕組みがある。
たとえばがんの場合、高額で長期的な治療が必要になることが多いが、手術や入院、化学療法などで高額な療養費がかかる場合でも、高額療養費制度が利用できる。負担の上限額は年齢や所得によって異なる。
1か月の負担の上限額=80100円+(医療費-267000円)×1%
これは70歳未満で月収53万円未満の人(一般区分)の負担額の算出式だ。例えば、治療に1ヵ月で100万円の費用が発生する場合、3割の30万円が窓口で支払う医療費となる。しかし高額療養費制度を適用すれば、最終的な負担額は8万7430円となり、21万2570円が還付される。なお、入院時の食事代金や差額ベッド費用は含まれないなど、申請には注意が必要だ。
ただし先進医療や自由診療は「保険対象外」
これだけみると、日本の手厚い保険制度の下では医療費の心配をする必要はないと思うかもしれないが、そうとばかりは言えない。陽子線治療などの先進医療の技術料は、公的医療保険の対象外であり、健康保険が適用されないからだ。
先に紹介した名古屋陽子線治療センターの治療費は、入院費や検査料抜きで約288万円。病院によっても異なるものの、通常250万円~300万円程の負担は免れない。いくら命のためとは言え、家計へのダメージは大きい。
さらに、未承認の医薬品などを利用したい場合も「自由診療」となり、全額自己負担になる。がん治療の選択肢は広がるが、その分、高額な治療費がかかってしまうことは否めないだろう。
もちろん早期発見であったりすれば、「高額療養費制度」が受けられる健康保険適用内の治療で十分ということもあるだろう。しかし、進歩する先進医療を受けるためには、その費用をカバーできる医療保険に自分で加入しておくに越したことはない。日ごろからこうした制度や保険について、知識を深めておくべきだろう。