売られたケンカを買った社員に「始末書」提出を拒否された

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   ケンカの当事者は、どちらに原因があったかを重視するが、周囲は「傷害の有無」を重視する。公務員の懲戒処分の指針でも、公務外の非行にあたって「人を傷害するに至らなかった」ときは停職または減給で済むが、「人の身体を傷害した職員」は免職となることがあるとされている。

   ある会社では、休日に酔っ払いにケンカを売られた社員が、相手にケガを負わせてしまった。そこで社長が始末書を書かせようとしたところ、「悪いのは相手」と拒否されてしまったようだ。

「なぜ僕が? 悪いのは相手ですから」

――運送会社の経営者です。入社3年目のA君が、日曜日にケンカに巻き込まれました。先に手を出したのは相手の酔っぱらいのようですが、つかみ合いになった末に、相手を突き飛ばしてケガをさせてしまいました。

   店の人が「言いがかりをつけてきたのは相手」と証言してくれたこともあり、大事にはならずに済みました。ただ、会社としてこのままでよいものかと考えあぐねています。

   というのもA君は、過去にも通りがかりにケンカを売られ、殴り合いの末に相手にケガをさせたことがあるからです。そのときも、やはり相手が一方的に言いがかりをつけてきたと聞き、「二度とやるなよ」と口頭で注意しただけですませていました。

   ただ、今回は2回目ですし、こういうことが続くと会社の評判も悪くなります。そこで社内の懲戒規定にもとづき、譴責処分とし、始末書を提出させることにしました。ところがA君は、

「なぜ僕が始末書を出さなきゃならないんですか。悪いのは相手ですから」

と聞き入れません。形式的に、もうしませんでもいいからと言っても、耳を貸しません。

   確かに休日のプライベートの時間のことであり、原因は相手にあります。しかし、ここで全く不問にするのも、他の社員に示しがつきません。こういうとき、どこまで処分を強制できるのでしょうか――

尾崎 健一(おざき・けんいち)
臨床心理士、シニア産業カウンセラー。コンピュータ会社勤務後、早稲田大学大学院で臨床心理学を学ぶ。クリニックの心理相談室、外資系企業の人事部、EAP(従業員支援プログラム)会社勤務を経て2007年に独立。株式会社ライフワーク・ストレスアカデミーを設立し、メンタルヘルスの仕組みづくりや人事労務問題のコンサルティングを行っている。単著に『職場でうつの人と上手に接するヒント』(TAC出版)、共著に『黒い社労士と白い心理士が教える 問題社員50の対処術』がある。

野崎 大輔(のざき・だいすけ)

特定社会保険労務士、Hunt&Company社会保険労務士事務所代表。フリーター、上場企業の人事部勤務などを経て、2008年8月独立。企業の人事部を対象に「自分の頭で考え、モチベーションを高め、行動する」自律型人材の育成を支援し、社員が自発的に行動する組織作りに注力している。一方で労使トラブルの解決も行っている。単著に『できコツ 凡人ができるヤツと思い込まれる50の行動戦略』(講談社)、共著に『黒い社労士と白い心理士が教える 問題社員50の対処術』がある。
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