がんを患った人が抱える不安や悩みは、とてつもなく大きい。それらを少しでも解消していくことは、がん治療の重要なポイントといえる。近年は医者や病院だけでなく、かつて同じようにがんを経験した人たちによる、がん患者を支える動きが活発になっている。
がん患者に対し、同じ立場を経験した人が、将来の不安や生活面での悩みについて相談に乗っていく。がんの「ピア・サポート」とよばれるこの活動は、がん患者会などが主体となって行われており、新たながん患者の支援として注目を集めている。
シンプルな「励ましの言葉」でも、大きな価値を持つ
神奈川県を中心に、がんのピア・サポート事業を展開するキャンサーネットジャパンの川上祥子さんは、「時にはお医者さんより、体験者から伝える方がよいことがある」という。たとえば、抗がん剤により毛髪が減少していくことへのアドバイスやメンタルケア、あるいはもっとシンプルな励ましの言葉でも、同じ体験をした人のひと言は、患者にとって大きな価値を持つケースがある。
ピア・サポートという支援の形は、もともと、エイズやアルコール依存症など、さまざまなジャンルで行われてきた。これらが近年、がんの領域において広がり始めたきっかけは、2012年に改定された「がん対策基本法」。このなかで、「国や地方自治体は、がん患者・経験者のピア・サポート充実に努める」と明文化されたことが、活動に拍車をかけた。
これまで、がんのピア・サポートは、患者団体・支援団体らによって推進され、病院の場を借りて、「患者サロン」のような形や、あるいは対面で相談に応じることなどが多かった。
だが、がんを一度は乗り越え社会復帰した人の中にも、再発や転移などの不安を抱える人は多く、そのような悩みに対応するために、病院以外のスペースにピア・サポートの拠点を設ける相模原市の例もある。病院外でのピア・サポートでは、がん患者だけでなく、その家族や友人・恋人、あるいは遺族が訪れ、体験者の立場からのアドバイスを求めることも多いという。
「病院や地域、団体が一体となって活動できれば」
ピア・サポートには、一定のリスクもある。それは、がん経験者(ピア・サポーター)の発言による患者への影響力がとても大きいということ。軽率なアドバイスや、治療への不安をあおるような医療的助言などをすれば、患者や病院の混乱を招いてしまう。
厚生労働省はこの課題解決のため、2011年より「がん総合相談に携わる者に対する研修プログラム策定事業」を日本対がん協会に委託。国として、ピア・サポーター養成プログラムの作成に取り組んでいる。また、キャンサーネットジャパンなどの非営利の支援団体でも、独自に「がん体験者コーディネーター」の養成講座などを開いている。
「ピア・サポートは、医療的な見解を述べるものではなく、あくまでがん患者のメンタル面を支えたり、生活上のアドバイスをしたりするものです。その上で、ピア・サポートという支援を、患者さんはもちろん、医療者の方々にも周知して頂いて、病院や地域、団体が一体となって活動を広げていければと考えています」(キャンサーネットジャパン理事・川上祥子さん)
がんのような重大な病気にかかった時、様々な不安とともに襲ってくるのが途方もない孤独感ではないだろうか。その孤独感を癒す手段として、ピア・サポートという支援が持つ可能性は、極めて大きいのかもしれない。
(有井太郎)