「人工的」なら何もかも悪いのか 天然のリスクも客観的に見るべきだ

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一種の趣味で食べているうちはいいけれど

   次に環境への負荷という点。実は有機農法の最大の問題はこれである。有機農法は化学物質を使わないために、土地へのダメージは比較的少ないが、通常の農法よりもずっと広い土地とエネルギーを必要とするので、トータルでは環境に与える負荷はより大きい。

   本年(2013年)はドイツのボッシュが空気中のチッソから化学肥料を作り出すことに成功してからちょうど百年目である。化学肥料は「近代最大の発明」とも呼ばれ、これにより人類の栄養摂取が劇的に向上し、平均寿命が延びた。

   戦後の日本が奇跡の経済成長を遂げた時期は、化学肥料によって農業の生産性が飛躍的に向上した時期と一致する。もしも化学肥料を全く使わなかったら世界70億人の半分程度の食糧しか賄えない、という研究がある。

   三番目は、有機農法の野菜や肉や牛乳の方が、栄養分が多いかという点。これについては2012年9月に米スタンフォード大学が237品目の食品について行った大規模な研究により「有機食品とそれ以外とで栄養価にほとんど違いはない」ことが示されている。いくつかの果物では殺虫剤を撒くと完熟させることができ、ビタミン含有率がずっと高くなるそうだ。

   以上のように、有機農業が優れた手法である、という証拠は特に見当たらず、むしろ問題点の方が多いようにみえる。

   思うに、有機食材はエリートの食べ物ではなかろうか。より値段の高い食材を買う財力があり、環境に対して意識が高いと自負する人たち。ロジャー・コーエン(NYタイムズのコラムニスト)は彼らを「子どもを私立に入れようとするような人たち」だという。

   一種の趣味(ファッション)として有機食品を食べている人はまあよいだろう。それによって幸福感を味わえれば結構なことだ。しかし「有機農法だけが正しい」と主張し、それに同意しない人を無知で非科学的だとあなどるようなことは、しない方がいいと思う。(小田切尚登)

小田切尚登
経済アナリスト。明治大学グローバル研究大学院兼任講師。バンク・オブ・アメリカ、BNPパリバ等の外資系金融機関で株式アナリスト、投資銀行部門などを歴任した。近著に『欧米沈没』(マイナビ新書)
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