「人工的」なら何もかも悪いのか 天然のリスクも客観的に見るべきだ

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   東日本大震災に伴う原発事故を契機に、環境問題に対する関心が高まっているという。中でも有機栽培による食材の人気が高く、「健康」や「安全」というキーワードが家庭の主婦を中心に多くの人の心を惹きつけているようだ。

   しかし、化学肥料や殺虫剤などを使わない有機農業は本当に健康であり安全であるのか。自然を大事にするのはよいことだが、人工的、化学的であることを頭から否定する必要があるのか。天然を含め、それを選択することがどういう意味を持ち、どういう影響を与えているかを客観的に判断することが正しい態度ではないか。

自然の毒素のリスクが化学肥料を上回ることも

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   有機農業を検証するポイントは三つある。まず、有機農法の方が本当により安全であるか、という点。これは専門家の研究によって否定されている。「有機食品が発がんの可能性にどう影響しているかは確認できない。微生物や自然の毒素の方が殺虫剤や化学肥料よりもはるかにリスクが高いからである」(米国ガン協会)。

   アメリカのデータでは、食事によって摂取する残留農薬の量は、植物に自然に存在する化学物質(自衛のために自ら作り出すもの。アレルギーなどの原因になる)などの千分の一未満しかないという。

   毒というと我々はどうしても人工的な化学物質を考えがちであるが、実際は自然に生ずる雑菌や毒のほうが怖い。2011年にドイツで大腸菌O104の大発生が起き、53人が亡くなった。この発祥地は有機農場であることが確認されている。

   殺虫剤などを使わない方が、菌が繁殖しやすいことは容易に想像できるところだ。アメリカでは、有機食品を食べている人が大腸菌O157(数多くの死者を出している菌)に感染するリスクはそれ以外の人の8倍ある、という研究がある(米国疾病管理センター)。

   もちろん人工の化学物質だって、使用方法を誤れば人体に悪影響を及ぼす。しかし、科学技術の発達のおかげで、先進国で農薬や化学肥料が人体に大きな影響を及ぼす例はごくわずかとなっている。

   例えば、戦後に殺虫剤として広く使われていたDDTは発がん性の疑い等によって使用が禁止されたが、その人体への影響はいまだ解明されていない。一方でDDTが使えなくなったために広い地域でマラリアが蔓延し、多くの尊い人の命が奪われた。これは忘れてはならないだろう。

小田切尚登
経済アナリスト。明治大学グローバル研究大学院兼任講師。バンク・オブ・アメリカ、BNPパリバ等の外資系金融機関で株式アナリスト、投資銀行部門などを歴任した。近著に『欧米沈没』(マイナビ新書)
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