世の中、創業社長と二代目の対立は実に多いもの。食品メーカーのD社長も、そんな愚痴が絶えない一人でした。創業者は実の父親で、病気療養で2年前に第一線を退いたものの、代表権のある会長として実権を持ち続けていたからです。
「社員が会長の方ばかり向いていて、俺の面目なんてありゃしない。俺がいろいろ決めても、鶴の一声でひっくり返っちまうんだから。だったら俺に『名ばかり社長』なんてやらせず、死ぬまで自分で社長をやっていればよかったんだ」
社長の人事案が却下「これじゃ面目が丸つぶれだ」
確かにD社長の気持ち、良く分かります。健康を害したという事情によるものとはいえ、社長のイスを一度は譲った以上、余計な口出しはしないで欲しいというのは、後継者なら誰しもが思うところではないでしょうか。
一方で、創業者の想いを考えると、自分が立ちあげ育ててきた会社ですから、何かにつけて気になるところは口を出したい、おかしなことにはして欲しくない、そう思うのも、またごもっともなことにも思えます。
ただ双方の立場を踏まえても、社長のイスを息子に譲った時点がターニングポイントとわきまえて、会長は新社長のお手並みを黙って見守るべきなのでは、と思ったものでした。
そんなある日に、またD社長から強烈な愚痴が飛び出しました。
「E課長を部長に昇格させるという人事案を会長にあげたら、即断で却下されちまった。Eくんには内々で頑張ってくれと言ってしまったし、俺の面目は丸つぶれだ。もう別会社作ってやめようかと本気で考えはじめたよ。大関さんからも親父にひとこと言ってやってくれ」
どこまで本気かは別にして、社長が辞意を表したのですから一大事です。クライアントの会社がバラバラになっては私も困るので、D社長をなだめつつ会長に面会を申し込みました。第三者として「何かと口をはさむ会長の意図」を正確に聞いておく必要があると感じたからです。