いつの時代にも「食」のヒット商品は存在するが、それらは同時期における「味」のトレンドと密接な関わりを持っている。そして2013年、味のトレンドにおいて主役になると見られているのが「苦味」だ。
ここ数年は「濃い味」と「辛味」がトレンド
味香り戦略研究所の発表によると、ここ数年の市場では「濃い味」と「辛味」がトレンドとされている。
前者は2005年にヒットした花王の『ヘルシア緑茶』が先駆けで、その後ペットボトルの緑茶飲料で続々と「濃い味」バージョンが発売された。後者は2009年頃ブームとなった「食べるラー油」系の商品がその代表となっている。
同研究所の菅慎太郎氏によると、「濃い味」や「辛味」は飽きも早いジャンルのため、今後はライトな味が流行すると考えられていた。その流れを変えたのが、近年大きな問題になっている「社会人のストレス」。現代人の抱える不安や孤独が、味のトレンドを「苦味」へとシフトさせているという。
実際、すでに「苦味」流行を予見させる現象として、ブラック無糖のコーヒーや甘味を抑え目にした低果汁飲料が以前より増えてきている。もちろん、前述した緑茶飲料の「濃い味」シリーズもその流れを作り出したひとつだ。
なぜストレスの解消として「苦味」が選ばれるのか。その大きな理由が、長い歴史の中で「苦味」が積み上げてきたイメージ。「苦味」は、古くから「薬の象徴」とされ、“何かを治す”イメージを連想させてきた。その結果、体の重みやストレス、苦しさを感じると、本能的に苦味を求める傾向が出て来た。健康食品が苦ければ苦いほど、その効果が高いように感じられるのもひとつの例といえる。
「苦味」が流行する背景は?
このように、味の流行や嗜好は、生活スタイルの変化や社会問題に起因していることが多いようだ。たとえば「濃い味」がトレンドになったのも、咀嚼(そしゃく)回数の減少が一因と考えられている。あまり噛まなくても、少ない時間でその味わいを体感できる「濃い味」が受け入れられたというわけだ。
さらに現在、本格派の味を追求する商品は「濃い味」から「コク」へと味わいが進化しており、短い周期で見た人気商品は「苦味」、長い視点で見た定番商品は「濃い味」から「コク」へ変化するというのが、市場の流れだ。
なお、「苦味」の流行が予測される要因として、社会人こそが味のトレンドを作り出す中心的存在であることが挙げられる。
「過去の飲食に関するマーケティングを見てみると、じっくりと時間をかけて買う物よりも、短い時間で判断し買う物が流行を作る傾向にあります。具体的に言えば、料理の食材より飲料やお菓子などの軽食、スーパーでの購入よりコンビニでの購入ですね。これらは社会人の占める割合が高いですし、そもそも、時間に追われがちな社会人の購買行動自体が短時間であるため、味のトレンドを作るきっかけとなることが多いのです」(味香り戦略研究所・菅氏)
今後はますます「苦味の日常化」が進むとのこと。コンビニなどには苦味を売りにした商品が増えてくるかもしれない。 (有井太郎)