「海外に行こうが日本に行こうが、無条件の安定はない」「海外に行っても必ずしも成功するわけではない」といったことを何度か書いてきました。
では、アジア海外就職の魅力って、なんなのでしょう? 私は、アジア海外就職は「多くの日本人が挑戦できる選択肢であること」が最大の魅力だと思います。
例えば、東大の工学部で電気工学を学び、英語で論文を書き、国際的に評価を受けている人がいたとしましょう。彼の卒業後の選択肢は非常にたくさんあります。
技術者として、パナソニックなどの日系の大企業で働くもよし、サムソンなどのグローバル企業で働くもよし、シリコンバレーの電気自動車ベンチャーで働くもよし。大学で研究者になることも、自分で起業をするという選択肢もあります。
多くの人に挑戦の機会が開かれているのが魅力
これに対して、そこそこの大学の文系学部を卒業した人は、新卒で「日本の就活」をする以外は難しそうです。なんとか就職し、日本企業のジョブローテーションで営業と総務と貿易事務を2年ずつ計6年ほどやったとしても、どこかの部門で突出した成績を残していない限り、その後の転職先は多くないでしょう。
このように、市場価値の高い分野で優れた実績があれば職業の選択肢は増え、逆にそれがなければ歳をとるにつれ選択肢は減っていきます。
特に日本では新卒一括採用を重視するので、大卒時の選択肢が一番多かった人もいるはずです。さらに、正社員重視の慣例があるので、スキルがそこそこあっても非正規雇用から正社員への道はさらに狭くなってしまいます。
これらのキャリアパスに比べ、アジア海外就職は比較的多くの人に開かれた選択肢です。学歴に関しては(シンガポール以外では)大学を卒業していれば、どの大学を出たかに関してさほど重視されません。
職歴も、現地で需要が高い専門分野があれば圧倒的に有利ですが、1~2年の経験でも評価してくれる会社があります。正社員や派遣社員は関係なく「何をやってきて、何ができるのか」をきちんと見てくれる会社も多いです。
成長市場なので、専門性を磨きたいという意思や適性があれば経験を積む機会を与えられることも多く、帰国後も「海外経験者」として需要に応えることができます。
私が「海外就職研究家」を名乗ろうと思った理由
私は、日本でよい仕事に就くチャンスを逃してしまった人にとって、海外アジアは再出発のよい選択肢になるのではないかと感じています。
私自身、日本で10年以上働いた後に、海外就職を検討しました。日本で働く選択肢もあったし、海外で働くという選択肢もありました。ただ、アメリカや欧州、オーストラリアなどの先進国に関しては、ビザの発給の厳しさから選択肢からは外れていました。
実際、海外アジアで就職活動をしてみると、「自分のように業務経験がある人間じゃなくても、もっと若い経験が少ない人にもチャンスは開かれているんじゃないか」と感じました。
しかも待遇は、若手でも15~20万円と十二分に生活できるレベルです。航空機だって東京―クアラルンプール間がわずか2.5万円ですので、年に何度も帰国する人がいます。「仕事を辞めたら帰りの航空券も買えなくなって、日本に帰れなくなる」なんてこともありません。
ただ、日本の大学や企業のように、一度入ったら安泰ではありません。入り口は多くの人に開かれていて、入った直後の待遇は恵まれていますが、その後のキャリアをどのように積んでいくかは自分次第です。
うまくいくか、失敗するかはわかりません。しかし、選択肢が少なく閉塞している人たちにとっての希望になるものだと思います。私が「海外就職研究家」という奇妙な肩書きで、アジアの実情を伝えることを仕事にしようと考えたのは、このような魅力的な選択肢を多くの人に伝えるべきだと思ったからなのです。(森山たつを)