「売上伸びてるのに銀行がケチつける!」――社長、それはこういう事情です

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「おう、大関さん、あんた元銀行員だろ。銀行ってヤツはどうなってんだ。説明してくれよ!」

   同業者の会合で、飲食店仲間のJ社社長が顔を合わせるなり噛みついてきました。社長は地域で4店舗の飲食店を経営するオーナー。ジャンル違いの多店舗経営を展開しており、幅広い顧客層から支持されています。

   事の成り行きはこうです。今期は各店の改装や新メニュー開発による集客力のアップ、季節ごとのキャンペーンのヒット等が寄与し、増収基調で推移しました。

   しかし、改装時期が重なったことや、バイト単価の上昇と定着率低下による採用コストの急増等があったがために、支払いが急増。ここ3期は連続増収増益だったのに、前期は繰越損失を計上するほどの赤字が出ました。

唐突に「金利引き上げ」と「追加担保」を要求

この状況では他の銀行も簡単に肩代わりしてくれないかもしれない
この状況では他の銀行も簡単に肩代わりしてくれないかもしれない

   これを知った銀行の若い担当者は、態度を急変させました。決算書を渡した総務部長に対し、来期の「貸出金利の引き上げ」と、追加担保として「役員である兄弟名義の土地建物」の差し入れを打診してきたのだそうです。

「いい加減にして欲しいよ。売上は大幅に伸びているんだぞ。償却に該当しない改装費用やら採用コストやらが、たまたま嵩んだから赤字になったとはいえ、家族名義の役員賞与を返上すれば実態は十分黒字なんだから」

   ついこの間までは「長期をもう一本借りてくださいよ」とか「賞与資金も銀行使ってくださいよ」とか言っていた担当が、潰れそうな会社でも見る眼で手のひらを返すようなことを言ったとか。社長の頭からはモウモウと湯気が上っているのが見えるようでした。

「頭に来たね。他の銀行からだって『借りてください』と言われているんだから、この際全部肩代わりしてもらう!」

   しかし、いきなり短気になって長年の銀行取引を解消するのは得策ではありません。社長の気持ちは分かりますが、他の銀行に相談を持ちかけても取引実績がない分、一層厳しい答えが返ってくるおそれもあります。

   ここはひとまず銀行の事情を知る立場として、なぜそんなことが起こったのか、どう対処するのがよさそうかをお話しすることにしました。

「タテマエとホンネ」は通用しなくなった

   確かに、私が入った30年近く前の銀行では、こう教え込まれたものです。

「取引先の決算書は、表向きの数字。実態は社長の腹の中だから、そこをよく把握すること」

   当時は決算書には現れない経営者のやり口も勘案して、取引姿勢を決めていたのが一般的でした。J社社長が言うように、役員報酬を含む節税目的での種々の取り組みもあれば、影の内部留保などもあるでしょう。

   しかし、そんな銀行のやり方は90年代の金融危機以降一変したのです。金融庁の設立と同時に、銀行が自己責任で債権管理をおこなう「自己査定」に時代に移行し、「決算書は節税目的で赤字だけど、実態は黒字」というグレーな判断は通用しにくくなりました。

   新人担当者への教育も「腹の中を探ること」より、「書類を確認してルールに沿って処理すること」が重視されるようになっています。

   すなわち金融庁の指導の下、各銀行のルールとして、赤字決算ならば査定により債権の格付けが下がって、貸出金利が上昇し追加担保を要求され、追加融資が借りにくくなるよう変わりました。タテマエとホンネの二重構造は通用しなくなったということなのです。

   担保についても、J社の場合、赤字決算の一因となる資金の流失先が社長一族への役員報酬であったがために、「そこまで会社の決算に関与しているのなら、役員個人名義の不動産担保を提供せよ」という要求であったと考えられます。

支店長の信頼を得られれば杓子定規にならない

   ただ、こんなにも唐突に「金利上昇」「追加担保要求」となるのも乱暴な話です。そこで社長に「普段、銀行に顔を出されてます?」と尋ねると、社長は「俺は銀行嫌いだから」と悪びれる様子もありません。

「銀行には、経理担当が振込とかに行っているだけ。すべて部長まかせで、うちに来ている若い担当者とも、ほとんど話をしたことがないな」

   原因はまさにそこ、社長の「銀行嫌い症候群」です。

   銀行に安心感を与えられるのは、結局のところ社長しかいません。定期的に銀行に顔を出して、支店長や副支店長にこまめに業績報告をすることが大切です。ときどきは彼らに会社や店の様子を見に来てもらうのも有効でしょう。利子を払っているのだから下手に出る必要はありませんが、信頼感のない相手にお金を貸したくないのは誰もが同じです。

   確かに銀行はルール重視になりましたが、かといって杓子定規に対応していたら、本当に成長性のある顧客を逃してしまいます。支店長や副支店長などの管理者には、担当者とは別の視点で顧客の信頼性を捉える権限があります。

   今回のケースでも、「ルールですので申し訳ないですが」と1年間の金利アップは避けられないにしても、追加担保については不要と判断される可能性が高いです。

   J社社長にはまず自ら銀行に行って、支店長に決算の説明をすることをすすめました。しっかりした計画のもとに事業を考えており、今回の赤字の理由は一過性のもので今季は業績順調で黒字の見通しであること、などを直接説明すれば、担当者の対応とは違ったものが引き出せるに違いありません。(大関暁夫)

大関暁夫(おおぜき・あけお)
スタジオ02代表。銀行支店長、上場ベンチャー企業役員などを歴任。企業コンサルティングと事業オーナー(複合ランドリービジネス、外食産業“青山カレー工房”“熊谷かれーぱん”)の二足の草鞋で多忙な日々を過ごす。近著に「できる人だけが知っている仕事のコツと法則51」(エレファントブックス)。連載執筆にあたり経営者から若手に至るまで、仕事の悩みを募集中。趣味は70年代洋楽と中央競馬。ブログ「熊谷の社長日記」はBLOGOSにも掲載中。
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