グローバル化により国内だけではやっていけなくなった会社が、続々と海外市場に進出している。日本人だけで進めることは必ずしも効率的・効果的ではないので、外国人と一緒に仕事をする人が増えそうそうだ。
そうなると問題になるのが、外国人と日本人との生活習慣の違い。多様な背景を持つ人材を許容する懐の深さが、各職場に求められるのではないか。ある会社では日本人の新人社員が「宗教」を理由に土曜出勤を拒み、社内で問題になっているという。
部長も問題視「他のメンバーのやる気に関わる」
――広告代理店の人事です。先日、営業部長が相談にやってきました。当社は基本的に週休2日制ですが、大手クライアントの案件が入ったため、最近は土曜出勤する営業部員が多くなっているようです。
平均すると月2回ほどの人が多いですが、週によってプレゼンの準備で部員全員が出ることもあります。しかし新人のA君だけは、一度も土曜出勤していません。
最初に土曜出勤の指示を受けたA君は、「宗教上の都合で土曜日は出勤できない」旨を営業部長に告げたそうです。そのころはまだ人員に余裕があり、別の社員をあてることができたので「A君は免除でいいか」ということになりました。
A君は仕事も人並みにこなすし、性格もいいので、最初のころは部署のメンバーも「そんな事情があるんだ」と理解してくれていましたが、疲労のためか体調不良を訴える人が増えたため、人手が足りなくなったようです。
そこで部長がA君に「申し訳ないが、今度の土曜は出勤してくれないか」と頼みましたが、結局断られてしまいました。
「部長すみません。土曜はどうしても出られないのです。私も心苦しいのですが…」
これを知った他のメンバーは「みんな出てるのにズルイ。私だって休みたい」「もう我慢できない。出れないんだったら辞めろ」と反発。部長も「他のメンバーのやる気にも関わる」と人事に相談にやってきたというわけです。
宗教上の理由とはいえ、要するにプライベートな都合に過ぎないと思うのですが、こういうときはどこまで厳しく対処できるのでしょうか――
社会保険労務士・野崎大輔の視点
「不公平感」を弱めるための懲戒処分も可能だが
「出れないんだったら辞めろ」という声があるようですが、A君が辞めても自分たちがよけい忙しくなるだけで、問題は改善しません。それでもこういう声が出るということは「不公平」ということに社員がかなり敏感になっている、あるいは不寛容な社員が多いということになります。基本的に週休2日制であれば、本来は人手を増やすなどして土曜出勤を減らすよう手当てすべきですが、A君の待遇を相対的に下げて「不公平感」を弱めることはありうると思います。
特に就業規則に「土曜出勤もありうる」と明記されていた場合には、それを承知で入社しながら出勤命令に従えないわけですから、懲戒処分を下すことができるでしょう。今回のケースですと譴責が妥当と思われます。ただし、完全週休2日制を掲げている場合は、処分できません。また周囲にとっては単なる私的な用事に思えても、A君の「信教の自由」を侵すことはできないので、出勤を強要するような言動はすべきではありません。
臨床心理士・尾崎健一の視点
反発している人たちは「仕事最優先教」の信者かも
「宗教はしょせんプライベートのことであり、それを理由に仕事に出ないなんて信じられない」と憤る考え方も、「仕事最優先教」という一種の宗教と言えるかもしれませんね。宗教上の理由で土曜出勤できないために懲戒処分などを下したり、評価を下げたりすることは、間接的に「信教の自由」を制限することになりかねません。ルール上は可能だとしても、実際にはできるだけ避けるべきだと思います。土曜出勤ができない代わりに、日曜に出勤してもらうとか、平日の残業を増やしてもらうとか、別の方法で業務量をカバーしてもらうことは可能ではないでしょうか。
人材や働き方の多様化という流れの中で、宗教に対する見方を一考する機会でもあります。法的には労働者は業務命令に従う義務がある一方、会社側にも労働者の特別の事情にできるだけ配慮する必要があります。業務時間内の2回のお祈りの時間を許容している会社もあります。これを機会にA君から宗教に関する情報提供や説明をしてもらってはどうでしょうか。
(本コラムについて)
臨床心理士の尾崎健一と、社会保険労務士の野崎大輔が、企業の人事部門の方々からよく受ける相談内容について、専門的見地を踏まえて回答を検討します。なお、毎回の相談事例は、特定の相談そのままの内容ではありませんので、ご了承ください。