私利私欲に目がくらんで横領を繰り返した元経理責任者が、相次いで逮捕されている。
3人の年齢は、Aが58歳、Bが49歳、Cが63歳。社長から信頼され経理の責任者を任せられた立派なおじさんたちである。人間誰でも欲深いと言ってしまえばそれまでだが、これほどあからさまな事件が続くのは何ともやりきれない。
まずは、昨年8月23日付のコラムでも取り上げた事件。新興市場に上場するS社は、元財務・経理担当部長Aによる1億7000万円の横領事件を公表していたが、Aは今年2月7日に業務上横領容疑で逮捕された。
遊興の魔の手にかかり「少しだけ」「いずれ返す」
Aは自ら会社の小切手を不正に作成し、銀行の窓口で現金化する手口を1か月半の間に10回も繰り返していた。調べに対し「全額をバカラ賭博に使った」と容疑を認めている。
もともとギャンブル好きだったAは、初めて訪れたバカラの魔力にとりつかれて数百万円をつぎ込み、わずか3か月間で30回も闇カジノに通い詰めていたそうだ。違法なギャンブルのスリル、負けを取り返したいという欲求…。金銭感覚が完全に麻痺していたのだろう。
次に、イタリア語の書籍販売や語学学校を運営する会社の元総務部長Bが2月4日に業務上横領容疑で逮捕されている。経理責任者だったBは、夜間一人の時に会社の金庫から現金を盗み、銀行に借入金を返済したように帳簿を操作するなどして約3800万円を横領したとみられる。調べに対し、着服金は「キャバクラなどの遊興費に使った」と供述している。
さらに、ジョン・レノンも愛用していたブランドの眼鏡販売会社の元役員Cが、経理部長時代にインターネットバンキングを悪用して約250万円を会社の口座から自分の口座に不正送金した容疑で、2月5日に逮捕された。Cの動機は「裕福な生活がしたかった」とのことで、高級レストランでの飲食や高級外車の購入に浪費していたそうだ。
各社の社長や周囲の社員たちは「まさか…」と絶句したことだろう。しかし、冷静な見方をすれば、起きて当然の状況だったのではないか。遊興の魔の手にかかり、欲求を抑え切れなくなる。会社のカネを一任されている立場を悪用し、「少しだけ」「今回だけ」と横領に手を染める。
そして「いずれ返す」「帳尻を合わせれば問題ない」などと身勝手な正当化をしながら、堕ちるところまで堕ちてしまう。こんな共通の構図が浮かび上がってくる。いわゆる「不正のトライアングル」の教科書のような事例だ。
横領したカネが裏社会に流れるのも問題
不正防止の観点からいえば、経理責任者だからといってカネの扱いをオールマイティにするのはご法度だ。いや、むしろ責任者だからこそ、現金・預金管理の細かい事務にはタッチさせるべきではない。「職務の分離」という内部統制の基本だ。
過激かもしれないが、これらの事件を教訓にして、経理責任者には以下のような「禁止令」を出してはどうだろう。
1.会社の現金、預金の入出金手続きを自ら行ってはならない
2.早朝、深夜、休日など、一人で仕事をしてはならない
3.単独での接待・被接待は厳禁とする
4.在任中は、ギャンブル、キャバクラ等の遊興は厳禁とする
5.これらの禁止行為を行った場合は、懲戒処分の対象とする
もちろん、現金、預金の動きは、監査部門などが厳しくチェックする。中小企業であれば、社長自らがチェックするか、顧問税理士や公認会計士に多少フィーを上乗せして監査させる。抜き打ちチェックをすればさらに効果的だろう。
また、AやBのように、横領してまで非合法なギャンブルやキャバクラにのめり込んでしまう人は、詰まるところその背後に隠れている反社会的勢力にカネを吸い取られているという実態にも目を向ける必要がある。
犯罪収益移転防止法でマネーロンダリング対策をしたり、暴力団排除条例による締め付けを厳しくしても、このような形で企業が裏社会の食い物にされてしまっては、効果は半減だ。
横領防止は、自社の資産を保全するだけでなく、反社会的勢力の資金源を断つためにも重要な取り組みなのである。そしてもちろん、大切な従業員に人生を棒に振らせないためにも。(甘粕潔)