「アニメーターって貧乏なんでしょ?」
「3食カップめんとか、テレビで見たよ?」
メディアで「アニメ=低賃金」「アニメーターは3食カップめん」というわかりやすいフレーズがくりかえし流されてきたこともあり、かなり多くの人が「貧乏=アニメーター」とパブロフ反応をします。
アニメーターも人それぞれなのでひと括りにすることはできませんが、「アニメーター=貧乏」と判で押したようにメディアで言われることにも飽きてきたので、今回はそのへんのお話をしてみようと思います。
「4人にひとりは年収100万円以下」にびっくり
あるスタッフは、テレビ番組の「アニメはいつも貧乏」という大げさな演出は交通事故だと思うことにしているそうですが、放映をみて真に受けてしまう一般の人があとを絶たない現実を考えると頭が痛いところです。
テレビは影響力がありますが、テレビ以外のメディアの情報も衝撃的です。たとえば、2008年にニュースにもなった、「アニメーターの約25%は年収100万円以下である」という日本芸能実演家団体協議会の報告は大反響を生みました。
また、日本アニメーター・演出協会の発行した「アニメーター労働白書2009」では、「動画の平均年収は105万円、20代アニメーターは年収110万円」という結果が示されました。
年収100万円という数字はかなりインパクトがありますが、よく記事を読むと、業界でギャランティの二極化が起きていることや、2~3年で辞める人が多いなど、同じ時期に他業種でもよく起きているようなことが報告されています。
谷岡一郎著『「社会調査」のウソ』という本には統計のウソについて書かれていますが、日本芸能実演家団体協議会の報告や『アニメーター労働白書2009』の分析結果も、この本に則れば「GIGO(ゴミ)」ということになります。
結果がゴミだとは言わないまでも、得られた調査結果から母集団(全てのアニメーター)の特徴を一般化するには、残念ながら調査方法という点で粗い部分が見受けられたので、もう一度分析を含め再考する必要があるように思えます。
とはいえ、こういった調査はアニメ現場を知るためにも有意義なので、次回の実施時には「本当にアニメーターは貧乏なのか?」を再分析してもらえるとありがたいですね。
金を稼ぎたければ「アニメ以外の仕事がしたほうがいい」
「じゃあ、本当は貧乏じゃないの?」
といわれれば、正直どう答えていいか迷います。しかし、アニメスタジオの社長たちがよく冗談で言っているのは、金を稼ぎたければ他の仕事をしたほうがいいし、赤貧に耐えてまでアニメをやる必要はないということです。
逆にいえば、「耐えられるくらいのプチ貧乏生活」をしているのがアニメーターかも知れませんが、とはいえ、「人生万事塞翁が馬」です。
私が20代のころ、金融機関や証券会社の新入社員でもボーナスが100万円を超える人もいましたが、まさか倒産したり統合に追い込まれるとは思ってもいませんでした。
高給が得られる業種に就職した友人たちはバブル崩壊によるリストラなどで収入は激減し、気がつけば彼らより稼げるようになっていました。
お金はないよりあったほうがいいとは思いますが、「アニメーターはみんな貧乏」の実体は、メディアによる面白イメージ再生産の産物かなと思っています。「貧乏アニメーターは貧乏?」と聞かれるたびにいつもトホホと思っていたので、今回ちょっと書いてみました。(数井浩子)