たとえ景気が良くなっても、多くの人の賃金は上がらない
とはいえ、「賃下げ効果で企業業績が回復→投資も増えて好況に→賃上げ」というルートでの賃上げも考えられる。ただ、仮に景気全体が良くなったとしても、筆者は今以上に実質賃金が上がる人は少数で、ほとんどの人間の実質賃金は横ばいかむしろ下がると見ている。
「なんで景気が良くなるのに賃金が下がるの?」という人は、6年ほど前を思い返してみるといい。当時、2002年に始まった好景気が69か月も継続し、70年代のイザナギ景気以上だともてはやされた。
だが、それだけ景気が良かったと実感していた人はどれだけいるだろうか。統計を見ても、イザナギ越えの間中、ずっと日本人の賃金は下がり続け、年収300万円未満のワーキングプアの数は増え続けている。
理由は簡単で、海外で安くやってもらえる仕事に(いくら景気が多少良くなったからと言って)企業は高いお金は払わないからだ。「企業はけしからん!」と思った人は、企業を個人に置き換えて冷静に考えてみよう。
「国産にこだわったのり弁当1000円」と、輸入食材で作った見た目の変わらないのり弁当300円が並んでいたら、誰だって後者を買うだろう。そういうわがままな消費者を満足させるためにも、企業は出来るだけ人件費を安く抑え、人件費の安い国にじゃんじゃん仕事を移し続けるしかないのだ。
当時から産業構造の転換を促進するような改革はほとんど行われていないので、今回もまったく同じことが起こるだろう。