振り返ってみると、私は銀行員時代から現在の中小企業コンサルタント稼業に至るまで、約30年にわたって「社長のグチ」を数多く聞かせていただきました。
「おう、大関さん来たか。ちょっと聞いてくれよ、うちのヤツらときたらさ…」
社長の口からあいさつ代わりに出てくるのは、たいがいが社員に対するグチ、部下に対するグチ。気心が知れた社長で、一度もグチを聞いたことのない人はいません。それだけ経営者というものは、悩み深いものなのでしょう。
「同業の平均以上を確保している自負あるのに」
グチのない会社にコンサルタントは不要ですし、グチこそ飯のタネなので聞き流すことがあってはなりません。グチには、会社をよくするヒントがたくさん含まれています。
ただ悩ましいのは、社長のグチはあくまで社長の立場での不満であり、会社の問題そのままとは限らないことです。批判された社員にだって、彼らなりの言い分があります。
「最近、Cという社員が転職してきたんだが、歓迎会で何を言いだすのかと思ったら、『今回は給料が安い点を除けば満足できる転職です』とか言いやがって。酒の席とはいえ、その場でふざけるなと怒鳴りたくなったよ」
これは私のクライアントである下請けメーカーA社の社長から、実際に聞いたグチです。社長からすればA社給料は同業の平均以上を確保している自負があり、心底「ふざけるな」と思ったことでしょう。
そこで社長の許可をもらい、C君(28歳)に「転職者から見た会社の問題点」という名目でホンネをヒアリングしてみると、こんな答えが返ってきました。
「学生時代の同級生とか、私の倍近くもらってますよ。こんな給料じゃ、いい人材は集まらないし、社員のモチベーションだって上がりません。人事、給与制度を見直すべきです」
しかし金額からすると、彼が比べているのは同級生の中でもごく一部の大手企業社員。よくある「例外誇張症候群」です。その水準まですぐにもらえるとは、本人も思っていないでしょう。
さらに耳を傾けてみると、問題は別のところにありそうだと感じました。前職から手取りが2割ほど下がったことへの「不安」があることと、頑張れば給料が上がる「希望」が見出せないことです。