アニメスタジオでは、ゲームや特撮のキャラクター人形、いわゆるフィギュアが置いてあります。特に、デザイナーやアニメーターの机にはズラリと陳列されています。
「いい大人が机にフィギュアって、ヘンじゃない?」
知り合いの編集者に、そう言われたことがあります。机の上に所狭しとフィギュアを並べるのは、もちろん単なる趣味という場合もあるのですが、デザイナーやアニメーターにとっては、ある重要な理由があるのです。
3次元と2次元のはざまで「妄想力」をかきたてる
その理由とは、フィギュアから得られる3次元の視覚情報が作画の参考になるからです。たとえば野生のトラをあらゆる角度から観察するのは難しいと思いますが、精巧にできたフィギュアがあれば、頭のてっぺんから足の裏まで観察できます。
最近のフィギュアは剥製をそのまま小さくしたのかと思うようなものも多く、筋骨格が正確なことはもちろん、ポーズも躍動感に溢れています。なかでも、リアルな造型で有名な海洋堂のフィギュアに萌えるデザイナーは多いです。
動物フィギュア以上に活用できるのが、アニメやゲームキャラクターのフィギュアです。特殊なコスチュームやヘアスタイル、独特な体型やスーパーモデル並みの頭身は現実にはお目にかかれるものではありません。
もちろん、アニメーターやデザイナーの技術力をフル稼働すれば、ある程度は描けます。しかし、フィギュアを見てからもう一度、想像力と妄想力を働かせると意外な発見があります。
「イマジネーションでなんでも描けるからアニメはいいよね」
そう言われることもありますが、バーチャルなものを作っているからこそリアルな情報が大事なのです。実際にビデオで撮影したものをコマ送りして参考にしているアニメーターも多いですし、カメラで実際に撮影して光の処理を確認する監督もいます。
あっという間に子ども時代に戻してくれる装置
そういうわけで、フィギュアはリアル情報源として大事なのですが、私はデザイナーやアニメーターにとってもっと大事で深い理由があるとみています。それは「童心返還装置」としてのフィギュアの効果です。
人間が知覚するもので最も脳にダイレクトに効くものは「におい」の情報だそうですが、指先から得る「手触り」の情報も負けてはいません。
タオルや毛布の「手触り」がいいと安心できるのは、子どものころの安らいだ記憶が想起されるからでもありますが、同じようにフィギュアのポリ塩化ビニルの感触は、子どものときに遊んだ怪獣やリカちゃん人形を思いださせます。
子どもはごっこ遊びが大好きです。ウルトラマンや仮面ライダーで怪獣ごっこをしたり、リカちゃん人形でホームドラマごっこをします。みなさんも子どものころ、ぬいぐるみやビニール人形でオリジナルストーリーをつくって遊びませんでしたか?
子どものころにフィギュアで遊んでワクワクした記憶、友だちとワイワイと騒ぎながら一緒に物語をつくって楽しかった記憶。フィギュアはデザイナーやアニメーターにとって、仕事に必須の「子ども心」をよみがえらせる大切な童心返還装置なのです。(数井浩子)