「大切なお客さまのために」 自分の500万円を貸してしまった銀行員

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銀行には行員が顧客の逆恨みを買わないしくみがある

   A氏のような行為を放置すると、最終的に銀行の審査が通らなかった場合、他の顧客の預金を横領して浮貸しを続けるパターンにはまるおそれもある。お金を扱う金融機関の仕事には、それだけの厳しい制限が伴うのである。

   しかし、顧客に融資を頼み込まれたものの、最終的に審査が通らないというのは少なからず起こりうることだ。ということは、渉外担当の銀行員は常に顧客に恨まれるプレッシャーにさらされていることになる。

   行内の厳正な基準で審査した結果なのに、顧客の逆恨みを買って「お前のせいで会社が潰れた」などと因縁をつけられては、銀行員もたまったものではない。

   これを予防するために、銀行では融資を断る際には、担当者ではなくその上司が責任をもって顧客に連絡をとることが一般的だ。そうでなければ、顧客に同情して、あるいは脅されて行員が自己資金を用立てしてしまうケースも起こりうるだろう。

   これは、金融機関が行員一人に問題を抱え込ませないための知恵である。社員一人に責任を負わせすぎることでミスや不正を起こしがちな一般企業にも、参考になるのではないだろうか。(甘粕潔)

甘粕潔(あまかす・きよし)
1965年生まれ。公認不正検査士(CFE)。地方銀行、リスク管理支援会社勤務を経て現職。企業倫理・不祥事防止に関する研修講師、コンプライアンス態勢強化支援等に従事。企業の社外監査役、コンプライアンス委員、大学院講師等も歴任。『よくわかる金融機関の不祥事件対策』(共著)、『企業不正対策ハンドブック-防止と発見』(共訳)ほか。
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