「バレンタインデー禁止のお知らせ」 破った女子社員を処分してよいか

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   職場のバレンタインデーで大量のチョコが飛び交っていたのも、いまは昔。女性事務職員が削減され、「女性に負担をかけるな」「仕事場に遊びを持ち込むな」といった風潮もあいまって、義理チョコを中心にかなり減っているとみられる。

   とはいえ、いまだにどっちつかずの職場があることも事実。ある会社では、バレンタインデーにチョコを配らないよう通知したのにもかかわらず、ある女性社員が「日頃お世話になっているお礼」を配っていたという。他の女性社員からの告発を受け、人事担当者がどう対処すべきか頭を抱えている。

「普段からあげてますし、ビスケットですから」

「今年は誰もくれなかった…」というのもカワイソウだと思うけど
「今年は誰もくれなかった…」というのもカワイソウだと思うけど

――IT会社の人事です。当社では2年前からバレンタインデーのチョコレートを職場で配ることを禁止しています。元々は「義理チョコを配らなければならない雰囲気に困っている」という女子社員の声に応えたものでした。

   当社は男性社員が多いため、チョコを買うお金もバカにならないそうです。男性社員にも聞いてみたところ、「お返しを選ぶのが面倒」という声もありました。

   そこで人事からの「呼び掛け」として、毎年2月に「バレンタインデーにはチョコを配らないよう」メールで全社員に通知しています。

   ところが今年のバレンタインデーに、入社2年目のA子さんが、この通知を破ってしまいました。複数の女子社員から「義理チョコ禁止なのに配ってる人がいます!」と告発があったのです。

   A子さんに確認すると、悪びれずにこんな答えが返ってきました。

「日頃お世話になっているお礼なんて、普段から職場で配ってますよ。それに、チョコじゃなくてビスケットですから。バレンタインデーに当たったのはたまたまですし、他意はありません」

   対応に困っていると、さらに他の女子社員たちが「社内で決めたルールを破って、おとがめナシって変ですよね」とツッコミが。そもそも余計なルールを作らなきゃよかったという声もありますが、こういうときどう対応したらいいでしょうか――

社会保険労務士・野崎大輔の視点
パワハラなどトラブル回避のルールとして意味がある

   社員間のお歳暮やお中元を禁止している会社もあるように、合理的でない慣習を当事者からやめると言い出しにくいため、会社がルール化することがあります。上司から「今年はどんなチョコかな?」と言われて不快に思う女性の部下もいるでしょうし、拡大解釈すれば職場内の優位性を背景としたパワハラに該当する可能性もあります。男性を含めて業務以外で余計な気遣いをさせられるなら排除すべきです。「余計なルール」という声もあるようですが、人事の「バレンタインデー禁止の通知」には、それなりの意味があると思います。

   会社がいったん決めたルールは、社員に守ってもらわなければなりません。小さなことから「会社のルールなんて守らなくていいんだ」と勘違いされては困るので、放置すべきではありません。重すぎる処分は難しいですが、人事からA子さんにルールの趣旨を説明した上で、来年以降は守るよう口頭で注意することは可能だと思います。

臨床心理士・尾崎健一の視点
人間関係の円滑化で仕事の生産性が上がる例もある

   そもそも「チョコ禁止」を人事としてルール化することが妥当かどうか、やや疑問です。職場は仕事をする場所であるとともに、人間が集まるところでもあります。人間関係を円滑にするコミュニケーションによって仕事の生産性があがる例もあり、お菓子のやりとりが必ずしも「非合理的な慣習」と言い切れない部分もあります。好意なり感謝の気持ちを表現するためにあげる程度は人づき合い、大人の社交の範疇でしょう。

   ただし、男性上司が女性部下に強要したり、逆に女子社員がお返しを要求したりすることは問題行為となります。「上司が強要してきた」と具体的な苦情が来れば、人事として指導することはあるでしょう。このようなケースが目につくようであれば通知があってもいいかと思いますが、禁止というよりは「バレンタインデーは各自の良識に任せるが、チョコやお返しを強要することがないように」という程度のものではないでしょうか。


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(本コラムについて)
臨床心理士の尾崎健一と、社会保険労務士の野崎大輔が、企業の人事部門の方々からよく受ける相談内容について、専門的見地を踏まえて回答を検討します。なお、毎回の相談事例は、特定の相談そのままの内容ではありませんので、ご了承ください。

尾崎 健一(おざき・けんいち)
臨床心理士、シニア産業カウンセラー。コンピュータ会社勤務後、早稲田大学大学院で臨床心理学を学ぶ。クリニックの心理相談室、外資系企業の人事部、EAP(従業員支援プログラム)会社勤務を経て2007年に独立。株式会社ライフワーク・ストレスアカデミーを設立し、メンタルヘルスの仕組みづくりや人事労務問題のコンサルティングを行っている。単著に『職場でうつの人と上手に接するヒント』(TAC出版)、共著に『黒い社労士と白い心理士が教える 問題社員50の対処術』がある。

野崎 大輔(のざき・だいすけ)

特定社会保険労務士、Hunt&Company社会保険労務士事務所代表。フリーター、上場企業の人事部勤務などを経て、2008年8月独立。企業の人事部を対象に「自分の頭で考え、モチベーションを高め、行動する」自律型人材の育成を支援し、社員が自発的に行動する組織作りに注力している。一方で労使トラブルの解決も行っている。単著に『できコツ 凡人ができるヤツと思い込まれる50の行動戦略』(講談社)、共著に『黒い社労士と白い心理士が教える 問題社員50の対処術』がある。
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