長引く不景気の中で、リーマンショック以後も堅調な消費を示しているのが、家計における美容消費の支出である。中でもヘアサロンやエステなどでは、既存のサービスに加え、親子での来店特典や、カット席がすべてペアシートとなっているサロンなど、母娘での来店を意識した取り組みが、新たな需要を生んでいるようだ。
リクルートライフスタイル が15歳以上の娘を持つ母親に向けて行った調査では、約半数の母親が、「娘と一緒に美容室へ行ったことがある」と回答した。その頻度は平均して1年に2.6回となっており、旅行(同1.8回)や映画(同1.9回)を大きく上回る結果となった。
「ママも」の意識が、消費拡大の原動力に
こうした親子で同じ体験を共有する試みは、NHKの長寿番組『おかあさんといっしょ』などでもおなじみの手法だ。しかし、今回のケースには、これからのトレンドを読み解く新たな背景があると、同社ビューティ総研センター長の野嶋朗氏は分析する。
その1つが、「母娘の友だち化」だという。同調査によれば、一緒に美容サービスを利用する理由のうち、親子双方で上位を占めたのが「気を遣わなくていい」が5割超、「一緒に体験できることが単純にうれしい」という回答も4割を超えた。さらに、SNS(ソーシャル・ネットワーク・サービス)などで娘をフォローしている母親は、インターネットやモバイルの普及により、実に全体の約4割に上ることが分かった。
また、母親側から多く寄せられたのが、「娘と一緒ならキレイになる口実ができる」「新しい技術やサービスを利用してみたい」などの意見。そこには、「ママと一緒に」という娘からの誘いというよりも、「ママも一緒に」という母親側の参加意識が強く感じられる。娘側の意見にも、「経済的なメリットがあるから」という、親の資金援助を期待する心理がかいま見える。
このトレンドを同社では「ままも族」 と名付け、バブル世代の母たちがもたらす新たな消費の波として、注目を寄せている。総務省統計局による人口統計概算値によれば、リクルート社が「ままも族」と定義する35歳から65歳までの女性は、2013年1月の時点で約2641万人。これら、日本の全女性のほぼ4割を占める巨大なマーケットに加え、さらに娘の費用分が見込める構図となっている。
モノからコトへの消費動向の変化、震災以降見直されてきた母娘の絆なども、この傾向を後押ししているという。今後「ままも族」は、美容以外の分野にも広がっていくことが予想される。各企業にとって、こうしたニーズをいかにくみ取っていくかが、課題となるだろう。