「怒らないマネジメント」が企業不正を減らす

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不正防止は「すぐに相談できる土壌を作ること」

   もちろん、手グセの悪い社員を放置すれば、職場の秩序崩壊を招く。不正に対して、会社は毅然とした処分を行うというルールを明確にし、信賞必罰を貫くことが大事だ。

   江見氏も、「(横領した店長に)もし、そこで『返せばいいよ』などと、甘い懲罰ですませてしまったら私自身が社内ルールを軽視することになり、ルール自体の意味がなくなります」と書いている。

   ただし、日常のマネジメントは厳しさ一辺倒では逆効果だ。仕事には問題やミスがつきものだが、「必罰」の部分が強調されすぎると、ミスをした部下が問題を報告しにくくなる傾向が強まる。

   ましてや、上司が「怒り」をマネジメントできない人間であれば、部下は問題を起こさないよう常にビクビクし、万一の事態が起きても助けを求めにくくなる。そして、小さな問題が隠蔽されている間に、取り返しのつかない大きな問題に膨れ上がることになりやすい。

   部下が「しまった」と思ったら、すぐに相談できる土壌を作ることが不正防止にも不可欠である。問題を抱え込ませないために、上司には、日常的なあいさつを含めてできるだけ積極的に部下と会話を交わし、コミュニケーションを良好に維持する務めがある。

   そして、普段から「何か困ったことはないか」「問題が起きたらすぐに相談してくれ」というメッセージを上司から発信し、いざ問題が起きたら頭ごなしに怒らずに手を差し伸べることが大切だ。部下のミスは上司たる自分の責任という認識をもって、問題の未然防止と早期発見に努める姿勢が欠かせない。(甘粕潔)

甘粕潔(あまかす・きよし)
1965年生まれ。公認不正検査士(CFE)。地方銀行、リスク管理支援会社勤務を経て現職。企業倫理・不祥事防止に関する研修講師、コンプライアンス態勢強化支援等に従事。企業の社外監査役、コンプライアンス委員、大学院講師等も歴任。『よくわかる金融機関の不祥事件対策』(共著)、『企業不正対策ハンドブック-防止と発見』(共訳)ほか。
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