体罰問題でゆれるスポーツ界、教育界だが、会社というビジネスの現場でも、これに近い問題が起きることがある。部下に手をあげれば、すなわちパワハラや暴行となるが、「叱責」と「罵倒」の境目など切り分けが難しいものもある。
叱責の是非には議論があるが、部下の不適切な行為は毅然と正しつつ、決して感情を爆発させたり部下の人格を否定したりしないことが大切だということに、江見朗(えみ・あきら)氏の著書「怒らない経営」を読んで改めて気づかされた。
「貴君がこうしたルール違反によって懲戒解雇になったことについて、私は貴君に謝りたいと思います」――。ある店長の横領が発覚し処分を下したとき、江見氏は店長にこんなメッセージを送って詫びたそうだ。
銀のさら社長「横領を起こさせたのは私の責任」
江見氏は、宅配すしチェーン「銀のさら」で成功を収めた経営者。横領した店長に彼が詫びた理由はこうだ。
社長というものは「社員みんなが常に正しく仕事をし、お客さまに喜んでいただく責任を担っている」。今回の横領は、社長がその責任を果たせなかったために発生した。
「貴君に今回の一件を起させてしまったことは、私の至らなさです。力及ばず、指導しきれず、誠に申し訳なく思います」
社員に横領を「起こさせてしまった」のは、社長の責任だということ。ここまで美しい心持ちにはなかなかなれないが、企業不正防止のための部下管理の真髄を示しているのではないだろうか。
ただし江見氏にとって、この考え方は単なる気持ちの優しさから来ているのではない。「凡事徹底」を掲げる会社にとって、怒りとは部下の協調心や自発性を損ない、組織の効率を下げる「ロス」なので、排除するのが合理的なのだそうだ。
部下がどのような案件を抱えているか、取引先との間にトラブルがないかを常にチェックし、適切な指示を出すのは上司の責任である。普段部下に任せきりにしておいて、いざ問題が起きると声を荒げる上司がいるが、本来は部下を叱る前に、上司は自分の管理不行き届きを反省しなければならない。