「締め切りは来週。放映は3週間後です」
「無理無理無理…!」と思わず叫びたくなるようなスケジュールの仕事が、ときどきやってきます。今だに、これまでやったことがないことが起きるアニメの現場。「史上最悪のスケジュール」の極悪っぷりは、毎年のように更新されています。
たとえばですが、「明日までにポルシェを特別仕様にカスタマイズして納車してくれ」と頼まれたら、メーカーでは徹夜のトッカン作業が行われ、請求金額も割増になりますよね。ところがアニメでは、オーダーがポルシェ級でも「料金は同じで期間は半分!」なんてこともザラです。
2大名言「アニメは気合い」「終わらない仕事はない」
オーダーを受けた現場の反応は、さまざま。品質が担保できないため、仕事を降りる人もいます。それでも最後まで残った人たちの考えることはひとつ。「さて、どうするか?」
「だれか一人が身体を張っていれば、その作品は成功するんだよ」
10年以上前ですが、アニメ監督の真下耕一さんから贈られた言葉です。ないないづくしの状況に「いったいどうすればクオリティが保てるのか…」と困っていた私に、大先輩はきっぱり「だれかが踏ん張ることだ!」と言い切りました。
その当時はテレビシリーズが週80本近くあり、多くのスタッフは掛け持ちで仕事をしていました。時間が足りなければ作品の質も下がります。私のいたスタジオは、企業としては当然なのですが、作品の質より納期優先という会社でした。
「アニメは気合いなのだ!」
単純な私は、大先輩の一言に感動。「気合い! 気合い!」と無我夢中で仕事をした結果、納期も質もキープできました。火事場の馬鹿力だったのかもしれませんが、最後はほとんど徹夜の連続でよく身体を壊さなかったものだと思います。
品質を支える「日々遊戯」という組織文化
精神論だけで仕事を語るのもどうかとは思うのですが、「アニメつくりは気合い!」と「終わらない仕事はない」は、私のなかではアニメつくり名言集のなかでも不動のトップ2。ピンチになるたび、今でも思い出す言葉なのです。
そんな「アニメつくりの気合い」は、何に支えられているのでしょうか。
車とアニメはともに海外で高く評価されている製品ですが、「モノつくり」として共通していることに、プロセスにおける品質管理の徹底があげられます。
その品質管理を支えているもののひとつは、「組織文化」。トヨタに「日々改善」「日々実践」があるように、アニメ現場にも「日々遊戯」という哲学があります。
歴史家ホイジンガは、人間の本質を「遊び」と捉え、「ホモ・ルーデンス」という言葉を編み出しました。遊びといっても、幼児のお遊戯からオリンピック・ゲーム、開発、研究まで広く含み、人間の活動の本質には遊びの要素があるという視点です。
「アニメづくりは遊んでいるようなものですよ」
アニメの現場では、こう自虐的に言うこともあります。しかし、この「遊び」は、いたずらに時間を潰すようなものではなく、気合いの入った真剣な遊びなのです。「もっと面白いアニメを!」という、子どものようなハンパない「遊び心」。これこそがアニメのクオリティーを支えているのかもしれません。(数井浩子)