「最悪のシナリオ」が描けていないから、最悪の状況に陥ってしまう

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「悲観的な予測なんかしたくない。失敗を前提に仕事を始めるようで…」

   経営者がビジネスの構想を練るとき、往々にして理想的な展開を描きがちです。もちろん社内には、最初のうちは予防線を張るようにリスクについて語る社員もいるでしょう。ところが、いざ「やる」段階になると、全体が一か八かの賭けに向かって猪突猛進しがちです。

   本来は「理想的なシナリオ」と「最悪のシナリオ」の両方を持って事に臨み、万一の際の撤退シナリオを睨みながら、慎重に軌道修正していくべきです。最悪のシナリオを深く考えた人だけが、的確な次の一手を打てると言ってもいいでしょう。

健全な危機感を持ち「このままならどうなるか」を考える

明確な戦略を持たない企業が成長できる時代は終わった
明確な戦略を持たない企業が成長できる時代は終わった

   現在、日本の大手企業の中には、巨額の赤字を出して大リストラに着手しているところがあります。この原因は個別にはいろいろあると思いますが、突き詰めれば「最悪のシナリオを描き、それに備えた手が打てなかった」ということに尽きるでしょう。

   GEの元CEO、ジャック・ウェルチは、健全な危機感をもって最悪のシナリオを描くことが、経営者の重要な仕事だと言っていました。業界の動きや利幅、新技術、政治動向などについて集められる限りの情報を使い、「変化しなければどうなるか」「変化したらどうなるか」という2つのシナリオを描きだすよう指摘しています。

   そのシナリオの1つが「最悪のシナリオ」なのでしょう。そして、最悪のシナリオに備えるために、リーダーは「変化の必要性」を訴え、これから何が起きうるか、勇気を出してメンバーへ事細かに説明するよう求めています。

   もしもリストラに至った会社が、あらかじめ「最悪のシナリオ」を明確に描けれていれば、現在のような状況は招いていなかったのではないでしょうか。もしくは、本当は来る最悪の状況に気づいていたものの、残念ながら説明する勇気に欠けていたのかもしれません。

   「最悪のシナリオが到来しても、手を打ってあるからここまでは大丈夫」というところまで考えが及んでいれば、本当の最悪の状況には至らないで済みます。きちんとした見通しに基づく明確な戦略を持たない企業が成長できる時代は終わっているのです。

「最悪のシナリオ」に備えた人が次世代に生き延びる

   明確な戦略が必要なのは、個々のビジネスパーソンも同じことです。「最悪のシナリオ」を描きつつ、それに備えた人だけが、次の時代にも生き延びることができます。

   前回、誰もが嫌がる仕事である「火中の栗」を拾うことを勧め、それは「宝石」になるかもしれないと書きましたが、拾うかどうかを考えるときにも「最悪のシナリオ」を描いておくことが必要です。

   失敗したときに二度と立ち上がれなくなるような仕事に、一か八かの賭けをするのは危険すぎます。最悪のシナリオを描かないうちに、安易に見栄を張ったり、人間関係などで押し切られて拾ってしまうと大変なことになります。

   どうしても自分には無理な役目と思ったら、勇気を持って断りましょう。そうしないと、あとで後悔するのが明らかだからです。期待されて「火中の栗」を拾わなかったときには、周囲からの冷たい視線やタメ息にさらされるかもしれません。でも、取り返しのつかない状態になって職場に迷惑をかけるよりマシです。

   「成果を出せる可能性」を冷静に見通し、その確率が高いと自分で思えるときに手を挙げるのが使命であると、自分に言い聞かせてください。上司の命令で取り組まざるをえないときには、少なくとも自分なりの懸念を伝える必要があるでしょう。(高城幸司)

高城幸司(たかぎ・こうじ)
1964年生まれ。リクルートに入社し、通信・ネット関連の営業で6年間トップセールス賞を受賞。その後、日本初の独立起業専門誌「アントレ」を創刊、編集長を務める。2005年に「マネジメント強化を支援する企業」セレブレインの代表取締役社長に就任。近著に『ダメ部下を再生させる上司の技術』(マガジンハウス)、『稼げる人、稼げない人』(PHP新書)。
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