「会社には貸しがある」という気持ちが正当化を後押し
パブロは誘惑に負け、奈落の底へと転落し始める。結局、内部監査で横領が発覚し、彼は2年以上獄中生活を送ることに。仕事を失い、妻とは離婚。二人の愛する子供とも離れ離れになった。
刑期を終えたパブロは、自分の経験を活かして、ビジネススクールの学生や経営者たちに、不正の愚かさ、倫理の重要性を説くセミナー講師として活躍している。あるインタビューの中で、横領に手を染める直前に「会社への強い復讐心」を感じ、それが横領の動機となったと語っている。
FBIなどが開発した「eメールの文面から不正の兆候を検知するソフト」には、「Cover up(隠す、ごまかす)」「Write off(帳簿から抹消する、損金処理する)」「Nobody will find out(誰にも見つからない)」といった「疑わしい表現」がプログラムされている。
その中に、「They owe it to me.」(ヤツらには貸しがある)といった表現も含まれるという。おそらく「ヤツら」として標的になりやすいのは、上司や勤務先だろう。会社の処遇への不満感は、不正の動機になりやすいとFBIも認識しているということだ。
自分の仕事振りに対する上司の評価、昇給や昇進といった処遇に対する不満が募ると、「軽く見られた仕返しをしてやる」という不正の動機が生じやすくなる。
それと同時に、「会社には貸しがある」「これで不当な評価の埋め合わせをさせてもらう」と不正を正当化する非常に不健全な心理状態に陥りやすい。職場への不満はモチベーションや生産性を低下させるだけでなく、横領により会社の資産が蝕まれるリスクも高めてしまうことを自覚しておきたい。(甘粕潔)