20代の若い人たちは、上司の武勇伝を聞くたびにこう思っているかもしれません。「自分も高度経済成長期に生まれていれば…」。40代半ば以降の人は、懐かしの音楽を聴くたびに思い出すかもしれません。「バブルのころはよかったなあ!」
現代の日本にタイムマシンはありません。ただ、場所を移すことで疑似体験をすることはできます。私はアジア各国を定期的に訪問していますが、各国の街を歩くたびに、「東京のあのころは、きっとこの街のようだったんだろうな」と想像を膨らませています。今回は、そんな2013年のアジアの街について書いてみようと思います。
「三丁目の夕日」から「バブル」まで楽しめる
カンボジア、プノンペン――。この街は、1950~60年代「三丁目の夕日」の東京です。未舗装の道が残り、個人営業の小さな店や平屋建ての市場が建ち並ぶ街。遠くの方には建造中の30階建てビルが見え、巨大なショッピングモールが建築されるという噂も聞こえてきます。
最近できた新しい店には、雑誌でしか見たことがなかった外国製の電化製品や洋服が並び、ちょっと高いけど無理すれば年に1つくらいはなんとか買えそうな値札が付いています。街には外国人が増え始め、お洒落なカフェや外国のレストランができ、彼らの街が日々「外国」に近づいているのを感じます。
インドネシア、ジャカルタ――。この街は、1960~70年代「高度経済成長期」の東京です。街には高層ビルが次々と建築され、先を争って個性的なモノが作られています。この街に来る外国人は、この街の人々に受け入れられるものは何かを必死で考え、さまざまなものを提供してくれます。
給料は毎年のように増加していき、去年よりも今年、今年よりも来年が豊かになることを確信することができます。人々は増え続ける給料を背景に次々と新しいモノを購入しています。街全体が「希望」に満ちており、歩いているだけでそわそわしてきます。
中国、上海――。この街は、1980~90年代「バブル経済期」の東京です。世界中の企業がこの街を目指しているような感覚に陥るほど、人や資本やモノや情報が集まっています。まるでこの街が世界の中心であるかのようです。
一部の人の元には、びっくりするような額のお金が集まり、それを不動産や株に投資すると、さらに桁違いの資産が形成されます。この街の人たちは、たぶんこのまま素敵な日々がずっと続くと思っているんだろうなと思いながら、環境汚染や空室率の高さなどから、この後に訪れる未来についても考えてしまいます。
日本人は途上国にとって「未来人」である
このように、アジアの街はそれぞれのローカライズを加えながらも、よくも悪くもかつて日本が辿った道を辿っているように見えます。さまざまな街に降り立つたびに、時間を行き来しているような感覚に陥ります。その国の文化や宗教からくる個性と同じように、「時間移動」を感じるのが旅の楽しみのひとつになっています。
時間移動の感覚は、観光として楽しむ材料だけではなく、ビジネスにも応用できます。
ソフトバンクの孫正義社長は2000年代、「タイムマシン経営」という言葉を使って、アメリカで流行っているモノを日本で展開する事業を行っていました。彼は当時「アメリカという未来」を知る未来人だったわけです。
2013年、多くの日本人は「日本という未来」を知る未来人として、アジアの途上国に降り立つことになります。我々の知っている「未来」と、2013年の「現状」。そしてその国ごとの「個性」を組み合わせて、この街にどんなモノを持ち込めば人々を幸せにすることができるかを考えるのは非常に楽しいです。
その想像は、ただの妄想で終わらせるだけでなく、現地で働いたり事業を興したりすることによって、現実に影響を与えることもできます。
今の日本に閉塞感を感じている人は、「元気がよかったころの日本」の面影を感じるために、飛行機に乗ってみてはいかがでしょうか? もしかしたらそこは、あなたが「希望」を見つけることができる場所かもしれません。(森山たつを)