追い詰められて会社のカネに手を出す「気の毒な横領」

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   前回、横領の3大動機として「遊ぶカネ欲しさ」「大切な人のために」「会社に恨み」をあげたが、結局すべて自分勝手な理由による犯罪であり、基本的に同情の余地はない。

   しかし、事情をよく調べると、中には「追い詰められて」「やむにやまれず」会社のカネに手を出してしまったという気の毒なケースもある。会社の側に何らかのセーフティネットがあれば、横領に手を染めずに済んだのではないかと思われるパターンを紹介しよう。

自分から上司にミス申告すれば「ペナルティ軽減」

上司に報告しにくい環境が被害を拡げる
上司に報告しにくい環境が被害を拡げる

   ひとつめは、「仕事上のミス」を隠すための横領だ。例えば、集金した現金を紛失してしまった営業マンが、別の顧客からの集金を流用して自転車操業的に穴埋めをする場合がある。

   また、銀行の担当者が取引先から融資の申込みを受け、口約束で了承したのに、処理をし忘れたり審査が通らなかったりして、結局断り切れずに他の顧客の預金を着服して融資金にあててしまう「浮貸し(うきがし)」という事件も起きる。

   どちらも、私腹を肥やすための横領ではなく、担当者の仕事をきちんと管理していなかった上司や会社にも責任はある。忙しすぎてミスしてしまうという不運な要素もあるかもしれない。安月給でこき使われた上にミスへのペナルティが大きければ、会社に対する逆恨みの気持ちも湧くだろう。

   この手の横領を防ぐためには、「仕事のミスは上司に正直に申告すべし」「正直にすぐ申告すれば処分は軽減される」といったルールをあらかじめ設けておくことが考えられる。

   過失の大きさにもよるが、業務上の損失は裁判になったとしても、全額賠償にならない場合が多いだろう。「紛失したら全額賠償+ペナルティ」と厳罰に処して社員を追い詰めると、かえって横領を誘発し、会社の被害を大きくするおそれもある。

   私生活上のハプニングで多額の金銭負担が生じたことが、横領の動機につながることもある。「知り合いの借金の連帯保証人になったら、延滞による保証債務を請求された」「家族の大病で高額の医療費負担が必要になった」というような場合だ。

   すべての会社で可能なわけではないだろうが、従業員への支援制度の一環として、このような私的な理由で金銭に困った場合に会社から融資を受けられる道を作ってあげることで、横領や自殺といった想定外のトラブルを防ぐことができる場合もあるだろう。

甘粕潔(あまかす・きよし)
1965年生まれ。公認不正検査士(CFE)。地方銀行、リスク管理支援会社勤務を経て現職。企業倫理・不祥事防止に関する研修講師、コンプライアンス態勢強化支援等に従事。企業の社外監査役、コンプライアンス委員、大学院講師等も歴任。『よくわかる金融機関の不祥事件対策』(共著)、『企業不正対策ハンドブック-防止と発見』(共訳)ほか。
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